『ナポリ仕立て文化を使い捨てないこと』 – プロフェソーレ・ランバルディ静岡が目指すサルトリアとの向き合い方

こんにちは、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の大橋です。

今日は皆さんに、少しだけ大切なことをお伝えしたいと思います。

私が普段している仕事は、イタリアのナポリに行って服を注文もしくは買い付けし、それを皆さんにご紹介すること、すなわちバイヤーのようなものです。

今ナポリ仕立てが非常に注目されていることもあって、たくさんのバイヤーがナポリを訪れ、巨大な商社から小さなセレクトショップまで、ナポリ仕立てを扱うようになりました。

しかしその現状を見て、またナポリの職人たちと話してみて、思うことがありました。

それはナポリのサルトリアや職人を食いつぶしてしまう、使い捨ててしまうようなバイイングをしていることが少なくないということです。

職人を使い捨ててしまうバイイング

例えばあるショップが、一軒の評判の良いサルトリアに服をオーダーするとします。

そこで生地や縫製のグレードを落とさせて、コストダウンをします。仕入れ値はぐっと下がりますが、定価は据え置きで販売することで、ショップは儲けを出すことができます。また極端なディテールを持つデザインをして、トレンド性を高めたりします。

その裏ではサルトリアの評判が下がっていき、誰もがそのサルトリアを「粗悪なものばかり作る」と認識し始めて売れなくなると、ショップは取り扱いをやめて別のものを扱うようになります。

しかしそのサルトリアはもう悪評と悪いイメージを取り消すこともできず、どうしようもなくなってしまうのです。

もちろんここまでのことはそう多くありませんが、やはり今後こういったことがたくさん起きることは十分に予想できるのです。

また大手の商社が小さなブランドと日本の小売店の間に入って契約をすることもあります。そのときには大幅な値引きを要求し、納期を催促し、結果として服そのものの品質が下がることも少なくありません。

トランクショーの約束をしたのにうやむやなまま進まず結局取り消しにしてしまう、専売契約を締結させるのに十分な数量をオーダーしない、ということもあると聞きます。

そういった職人を圧迫し使い捨ててしまうような取引で得た金銭で、伝統を感じるわけでもなく、美しいわけでもない高層の本社ビルが都内の一等地に建てられて、良い循環になることはないでしょう。

ナポリ仕立てを一緒に発展させていくために

サルトリア・チャルディのエンツォと。

そこで自分だけでも、ナポリ仕立てを一緒に発展させていくようなバイイングをできないか。

そう考え、私はナポリで仕入れやオーダーをするときにいくつかのルールを設けました。

これはいわばフェアトレードのようなものですが、それと同じ位に大切なことで、それよりもずっと基本的なことです。

プロフェソーレ・ランバルディ静岡では、ナポリ仕立てを現地のサルトリアと一緒に発展させていくために、バイイングの際には以下のことを常に心がけています。

 

1. 仕立て工賃を値切らない

2. サルトの時間を不当に奪わない

3. サルトリアの価値が下がる服を作らせない

4. サルトの仕事を無駄にする粗悪な生地は使用しない

5. 仕立て服の価値を正しく伝える

 

1. 仕立て工賃を値切らない

まずは仕立て工賃を値切らないこと。

基本的にサルトリアはそれぞれの仕立て工賃を決めています。それは彼らが考える自分の仕事の価格であり、それを値切ることは彼らの仕事を正しく評価していないことになります。

ですから当店では仕立て工賃は値切らず、その工賃から販売価格を決定しています。

彼らが仕立てそのものに集中できるようにするには、やはり彼らの決めた仕立て工賃でオーダーすることが基本です。

2. サルトの時間を不当に奪わない

また職人やサルトリアに関わる人たちの時間を不当に奪わないことも大切です。

例えば「トランクショーをやろう」「新しいプロジェクトをやろう」と連絡して、ミーティングばかりをして結局やらなかったりということが少なくありません。

またナポリの職人たちは今や一種のスターのようなものです。それをオーダーもせずに何度も呼び出したり、果てはオーダーしたのにお金も払わず取りにも来なかったりする人々(日本人もいます)のことをナポリの職人たちが嘆くのを何度も聞きました。

ですからサルトの時間を不当に奪わないことも常に意識しています。

3. サルトリアの価値が下がる服を作らせない

サルトリアの服を扱うとき、トレンド性を非常に強くしたり、あまりにもモードな雰囲気のディテールにしたりすることは、サルトリアの価値を下げることにつながります。

クラシックな服を仕立て続けている限り、ナポリのサルトリアが「飽きられる」などということは絶対にないでしょう。

しかし一度トレンド性を打ち出して、大々的に流行ってしまえばそれがどうなるかはわかりません。

また先ほども書いたように、手縫いの工程を減らしてマシンメイドに近づけることでコストダウンをしたりすれば、そのサルトリアの価値は大いに下がってしまうでしょう。

そこで、サルトリアが今後も継続できるような服、あるいはもっと品質を追求し、サルトリアの評判がより高まるように意識しながらオーダーしています。

4. サルトの仕事を無駄にする粗悪な生地は使用しない

サルトたちはその一生をかけて仕立てを追求しています。

子供の頃から仕立てのスピードを競い、熟練と言われる技を取得してからも一切満足することなく仕事を究め続けているのです。

そんな彼らでさえ、一着のスーツを作るのに約50時間が掛かります。

逆に言えば一着のスーツは職人の人生の50時間を背負っているのです。

それにもかかわらずポリエステル、ナイロン、ポリアミドといった化繊の入った生地、品質の悪い生地でオーダーをすることは、彼らの仕事をある意味無駄にしてしまうことにつながります。

むしろその50時間を素晴らしい生地と対峙すれば、彼らの仕立てがまた一歩先に進むかもしれないのです。

オーダーする生地を選ぶときには、そんなことを意識しながら選んでいます。

5. 仕立て服の価値を正しく伝える

そしてそのサルトリアの仕事を評価するのは、着る人です。

せっかくお客様に服を手にして頂くからには、それがどのような職人仕事で生まれたものであり、どんな工夫がされており、何を伝えるべく仕立てられたものなのかをお客様にお伝えしたいと思います。

仕立て服の価値を正しく伝えること。

雨降らしや裾まで切ったダーツ、そら豆型のアームホールといったディテールの話もさせていただくでしょう。

売り手からすれば、そのようなわかりやすいディテールを強調してナポリ仕立てを紹介したほうが、ずっと売りやすいのです。

しかし一番大事な部分、職人たちの思いやナポリ仕立ての本質を知ると、この世界はもっともっと面白いものになっていきます。

そして皆さんにそれをお伝えできれば、職人たちがもっともっと正しく評価され、ナポリ仕立てはどんどん育っていくのではないでしょうか。

そのためにも、これからもブログやインスタグラムで情報発信できればと思います。

 

今回は少し長くなってしまいましたが、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の目指すナポリ仕立てとの向き合い方を紹介させていただきました。

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