まだ知られていないナポリのブランドを扱うということ

こんばんは、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の大橋です。

先日のSartoria Caracciolo サルトリア・カラッチオーロの記事に思わぬ反響がありました。

メールの問い合わせで皆さん件(くだん)の記事について言及してくださり、私はついに片田舎の小さな洋服店の店主という報われぬ仕事をやめ、プロライターとして生活を送ることを決心いたしました。

そしてきっと数ヶ月後に当店を訪れたお客様は見るでしょう。

無情にも冬は深まり、カシミアのチェスターフィールドコートは質に入れてしまい、暖炉にくべる薪もすっかり底尽きて、ついにこの素晴らしい記事を燃やして暖をとっている姿を…。

No, in cener la carta si sfaldi
e l’estro rivoli ai suoi cieli.
Al secol gran danno minaccia…
E Roma in periglio…

いいや この紙を灰に変えて
霊感を天に返してやるのさ
この世界には大きな損失だが
ローマが危機にあるからには

“La Boheme” – Giacomo Puccini

その儚い火が消えた頃、私は言うでしょう。

「さて、もう一度真面目に洋服屋をやるか…」

まだ知られていないブランドを取り扱うということ

このような店をしていると、ときどきお客様にこんなことを聞かれることがあります。

「全く知られてないブランドを、どうやって見つけてくるの?」

どうやって見つけてくるか、もちろん詳しくは書けません。いつか私の言葉尻を捉えてひっ捕らえようと業界に監視されているから、という訳ではなく、そこに簡単な方法などないからです。

ありとあらゆる手段で情報を集め、ナポリの街を隅から隅まで歩き回り、ある時には通りがかる紳士に「あなたがたに聞く、その美しい服をどこで仕立てたのか」と天使づらして尋ねたりしたのです。

そしてそうして見つけたサルトリアやブランドでは大抵英語なるものが通じず、イタリア語で苦労しながらコラボレーションをする。

やっと注文して日本に帰ってきてもなかなか発送完了の連絡は来ず、何度も何度もWhatsappでメッセージを送って、やっと発送の兆しが見える。

そもそも駿河湾の恵みに感謝し、ありがたい気持ちで刺身を前にしているときに、急に電話をかけてきて「Ciao tutto a posto? やあ、調子どう?」と尋ねるくらいなら予定通り発送してくれ!と思うのですが、それがナポリ式なのですね。

そしていよいよ悪名高いPoste Italianeで荷物が発送される。

私は祈る。

3週間ほどして「あの荷物のことは最初から無かったと思おう」と諦めたころついに荷物が届く。

荷物を開けるとき、私は跪く。

Oh Dio (ああ神様…)

荷物を開けると、私は呟く。

Mamma Mia (なんてこった…)

そして連絡するのです。

「内容が違ったよ、エスプレッソをおごるから、ピッツァをおごるから、後生だから、正しい内容のものをもう一度送ってくれ」と。

これがまだ日本で知られていない服を発見し、取り扱うまでの流れです。

売れる服より、職人の心が通う服を

と、こんな風に服をバイイングしていると、すでに日本で有名になっているブランドを取り扱う方がいかに楽か、普通は考えることでしょう。

知られていないブランドの服は、苦労して探して見つけて仕入れてきても、すぐには売れません。その魅力や特徴を一からお客様に説明し、ブランドネーム抜きで選んでもらわなければならないからです。

それに対してすでに有名な服はすぐに売れるでしょう。お客様が自らそれを調べ、それを見に来てくださるのです。

私も気が確かであれば誰もが知る大人気ブランドを、代理店を通して仕入れるのですが、おそらくナポリが私に幻想を見させているのです。

例えばピッチリーロ兄弟の誠実さ。自分の仕事にプライドを持っており、見えない部分でも決して手を抜かないどころか、見える部分以上に丁寧に仕上げ、一着一着を心から大事にしながら仕立てる姿勢。

ピッチリーロは全て丁寧な手縫いでハ刺しを行う。

あるいはルイジ・グリマルディの努力と良心。彼らはナポリ現地民の手の届く値段で本当に美しい既製服を作るため、いつも素晴らしい生地を探し、パターンを研究している。

Luigi GrimaldiのGigi(Luigiの愛称)と共に。

工房の職人はどこかの誰かが企画したブランドタグのために言われた通り服を作るのではなく、ルイジ・グリマルディとして意思を持って一着一着を仕立てています。

このようなものを見てしまうと、単に売れる服を取り扱うのではなく、本当に職人たちの心が通った服を取り扱いたいと願うようになってしまうのです。

応援するような気持ちでこれらの服を扱っていれば、きっとお客様に共感していただける日が来るのではないか、なんて私は考えています。

Or vi dirò: quest’oro, o meglio vestito,
ha la sua brava storia…
では君たちにお話ししよう、この金貨、正しく銀貨には
たいへんな由来があるのだよ

“La Boheme” – Giacomo Puccini

売れる服を仕入れる理由は、売れること以外にないかもしれません。売れなくなれば、取り扱いをやめて別の服を始めるでしょう。
しかしこれらの名の知れぬサルトリアやブランドの服には、金貨のようなネームバリューはなくとも、すぐに認められなくても、どうしてもこの服でなくてはならない「たいへんな由来」があったのです。

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