こんばんは、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の大橋です。
今日はお客様にご納品させていただいた、Sartoria Ciardi サルトリア・チャルディのジャケットをご紹介いたしましょう。
常々思うのですが、ナポリ仕立て専門店の店主というのは実に質素で地道な仕事です。
朝起きては生地を眺め、昼になったら柔らかいブラシでジャケットの埃を払い、夜になったらナポリに電話しながらコーヒーを飲む。そんな仕事であることは、もうブログで再三にわたって紹介している通りです。
しかし悪いことに、そんな地味な仕事をしていながらも、着ているものだけは一流です。
お客様のお手本になるために、という大義名分を振りかざし、身の丈に合わぬカシミアや贅沢なウール生地でジャケットを仕立てているというわけです。
(ところで私がスーツをあまり着ないのは、ジャケットの方が生地が短くて済むからですよ、皆さん!)
そういうわけでなかなか良い生地で自分の服も仕立ててきたつもりでしたが、今回ばかりはぐうの音も出ません。ここまでの生地は、ふとお店に入荷するまでお目に掛かったことすらなかったのです。
これはかのキートンが別注して織らせたビキャッシュのジャケット生地。ただでさえ極上のキートンのカシミアに、ビキューナを贅沢に混紡。考えうる最高級の組み合わせでしょう。
そして何よりも素晴らしいのは、この生地の良さです。
普通ビキャッシュ生地といえばもっと柔らかく、ふんわりとデリケートで、まるで移り気な女の子のように繊細な扱いを求められるものです。
しかしこのこの生地はむしろジャケット生地としては重厚なほどに目が詰まっており、しっとりとした手触りですらあります。
こんな都合の良い生地があって良いものでしょうか。
仕立てはサルトリア・チャルディのビスポーク・トランクショーにて。美しい生地にふさわしい、丁寧な仕立てです。ステッチ一つとっても、なかなか気合いが入っています。
また、このジャケットは胸周りからラペルの返りまで実にふくよかな立体が生まれていますね。これはしっかりとコシのある生地に時間をかけてアイロンワークを施していくことで生まれるものです。
ウエストシェイプもとても美しいですね。
サルトリア・チャルディはそこまで絞らないシルエットと言いますか、やや余裕がある仕立てを特徴としています。(もちろん要望があれば絞ることも可能です)
そのため着用すると実にクラシックで、地に足のついた雰囲気になります。
背中にもアイロンワークが感じられます。ふんわりとした丸みは人間の背中の形に沿うもの。首から肩、肩から腰、腰からヒップと緩やかなS字を描いてぴったりとフィットします。
また肩甲骨部分にゆとりを持たせているので、腕を上げても突っ張らず柔らかい着心地です。
ラペルの丸みも、やはりハンドワークによって生み出されるものです。手でハ刺しを行うことでしっかりとした芯地を使用していても柔らかく仕上がるのです。
ナポリ仕立てのジャケットとして売り出されているものの多くは、ミシン縫いの硬さを和らげるために芯地を極端に柔らかいものにしたり、芯地を抜いたりしています。
すると試着したときには柔らかく感じますが、大抵このような美しい立体感はなく、あったとしても着ているうちにすぐ崩れてしまいます。
「ナポリ仕立て=アンコンで柔らかい」ではなく、優れたフィッティングや手縫いによって柔らかい着心地を実現しているのが本当のナポリ仕立てなのです。
それにしても、なんて素晴らしい生地でしょう!
実は色違いのビキャッシュ生地がまだあるのです…。サルトリア・チャルディでの仕立てが条件にはなりますが、ご興味のある方は是非お問い合わせくださいませ。
それではご機嫌よう。