幻の生地《EUROTEX Silk and Wool》に捧ぐ散文

類稀なる美しさというのは、どうしてか陽炎のように現れては消えていく。

EUROTEX ユーロテックスの数あるバンチの中で、最も美しいチェック柄とも言うべきこの生地。これまた些細な理由で廃盤となってしまったものです。

EUROTEX Silk and Wool

…この光沢にはあの貴族的な香りがあるのです。

例えば純銀のピュイフォルカ、サンルイのクリスタルランプ、ラツィオ原産の大理石で埋め尽くされたフローリング、丁寧にレストアされた1960年代フェラーリのボディのような…。

– EUROTEX ユーロテックス – 60年代フェラーリと大理石の別荘を買う喩え

それにしてもこの美しいシルク&ウールのバンチが廃盤になることを知って、どれほど悲しんだことでしょう!

私は個人的にこのユーロテックスという生地商を大変気に入っているのです。(おそらく日本では当店しか扱いのない生地ですが、それはひとえに心より気に入っているからです)

ローマ的なエレガンスと英国製のクオリティ、そしてナポリ仕立ての組み合わせ。これは言うなればチョコチップの入ったジェラート“ストラッチャテッラ”に、ラムの香りがするホイップクリームを乗せるのと同等の幸せなのです。

その中でもこのシルク&ウールのバンチは、贅沢なシルク混でありながらも仕立て栄えし、奥行きある光沢感を持つ極上品。

英国生地の仕立て栄えする目付けの良さと、この美しくイタリア的な色・柄の組み合わせ。これは唯一無二の存在です。

しかし残念ながら数々の貴族たちを魅了したこのバンチは、英国の織元が閉鎖されたことで廃盤になったのです。ローマのユーロテックス倉庫にあるストックが尽き次第、手に入らなくなってしまう幻の生地なのです。

幻の生地を使用した既製服

全くどうしてこうも馬鹿げた思いつきをするのでしょうか、この幻の生地を既製服にすることにしました。

それが今回の2021春夏コレクションのNicola Giordano Wool&Silk 3B Jacketです。

正直なところ、生地の希少価値的にも、コスト的にも既製服にするにはあまりにも無謀です。

これはある意味記念として製作したジャケットなのです。

友人でありSartoria Caracciolo サルトリア・カラッチオーロのオーナーであるNicola Giordano ニコラ・ジョルダーノ。私は彼と本人の名を冠したブランドを当店限定で展開するにあたり、最高のジャケットを製作したいという話をしていました。

そこで自分も以前より愛用しているこの生地を選んだというわけです。

それにしても、素晴らしい出来栄えではありませんか!

幻の生地とNicola Giordano ニコラ・ジョルダーノのハンドメイド仕立てによるジャケット。実に夢のあるコラボレーションです。

写真には残念ながら写っていませんが、袖裏地は薄いゴールドベージュ無地。大変エレガントかつクラシカルな雰囲気になっています。

類稀なる美しさは儚く

私もすでに1年以上イタリアに行っておらず、そのせいでユーロテックスの倉庫にどれほどこのバンチの生地が残っているかもわかりません。

しかし確実に言えることは、チャンスはもはや限られているということ。色柄によってはPermanently Discontinued 永久的廃盤になっていることもありえるのです。

類稀なる美しさは儚く消えていく。ビンテージワインであれ、クラシックフェラーリであれ、極上のウールシルクであれ。数の限られているものは、終わったら終わりなのです。

しかしその美しさを消さない方法が一つだけある。それは手に入らなくなる前に、手に入れること。

ぜひ店頭でバンチをご覧ください。それが難しければ、素晴らしい既製服をご覧くださいませ。

それではご機嫌よう。