「ねえ君、仕立てたスーツというのは一体どういう感じなんだい?」
「それは簡単だよ。まるで世界を支配しているような気分になる」
「それから?」
「それから? 単純なことだ。妻に言われたようにゴミを出して、会社に行くのさ」
これは英国の一般的なビスポークスーツに関する所見である。しかしそれがHolland & Sherry ホーランド&シェリーの生地で仕立てたスーツとなれば、話は少し変わってくる。
Holland & Sherry ホーランド&シェリーは特別だ。ナポリに行けばその名前を聞かない日はないし、かの生地を扱う代理店といえば、それこそ世界の支配者のような面持ちでそこら中のサルトリアを訪れている次第である。
円安の今となっては、Holland & Sherry ホーランド&シェリーの生地そのものが、それこそシルクロードを渡ってもたらされて金と交換されていた東洋の宝物のように高価で価値のある存在だ。
だがその中でもビンテージのスーツ生地と言ったら、それこそ幻のような存在である。なぜなら、よいスーツ生地とういうのは何十年に渡って残ること自体珍しいし、当時から最高峰とされていたホーランド&シェリーの生地ともなれば、真っ先に消費されてしまうからである。
だから美しいビンテージのHolland & Sherryのスーツというのは黄金の羊の毛皮、蓬莱の玉の枝、キリストの血で満たされた聖杯、そういうものの世界だ。
そして É Questo – これがそれである。
今回紹介する二着は「類まれなるスーツ」だ。それぞれに特徴があり、異なる点において……代え難い。
1. Holland & Sherry ブラウン ヘリンボーン柄のスーツ
ブラウンのスーツ生地は珍しい。それ自体が貴重な存在だが、それがHolland & Sherryのビンテージともなれば、もう見つけることは不可能に近い。だがそういうものに限って、贈り物のように当店に入荷するものである。
決して非常に暗い色ではないが、煙のかかったようなトーンのお陰で実に慎み深い雰囲気を醸し出している。ダスティブラウンとか、アッシュブラウンとかという世界観だ。
なんと煌びやかな生地だろう。ウールとは思えないほどに贅沢な光に溢れ、手にとって太陽やライトにかざすたびに新たな感動が呼び起こされる。Holland & Sherryとはいえど、ここまでラグジュアリーな質感のウールはなかなか出会うことができない。
もちろんブラウンのスーツは簡単ではない。特に日本人にとってはそこまで馴染みのない色だと思われ、敬遠されがちである。しかしこれに関してはもはや、グレーのスーツよりも着こなしやすいと言っても良い。
肌馴染みのよいブラウンに、奥行きを感じさせるヘリンボーンの織り柄。平坦な雰囲気になりがちなブラウンスーツだが、これは光の加減で常に新鮮な印象を与えてくれる。それにこの艶やかさのおかげで洗練されたクラシックと、モダンな優雅さをシックさの中に280g/m程度のウーステッドの中に兼ね備えている。
ネイビーとグレーのスーツはあっても、まだブラウンを持っていないという人は多いだろう。彼にとって、このブラウンは唯一無二の選択である。
着こなしやすさ、生地としての圧倒的なクオリティはもちろんのことだが、Holland & Sherryのブラウンスーツという前代未聞のチャンスを、みすみす見逃す必要はない。
なぜならブラウンのスーツは是非とも一着欲しいが、その一方で一着あれば十分だからだ。その一着をHolland & Sherryのビンテージにするか、これを見逃して根っから平々凡々な生地見本帳から選ぶか……答えは単純明快である。
2. Holland & Sherry ネイビー ヘリンボーン柄のスーツ
ネイビーのヘリンボーンでスーツ生地といえば、それほど貴重な生地には感じられないだろう。確かにネイビーであれば、さすがのHolland & Sherryのビンテージとはいえ、出会える可能性は無くはない。
しかしこの生地については残念ながら、もうこれっきりと言うべき一着だ。なぜならこれは決してそこら中にあるようなウーステッドではなく、Holland & Sherryのラインナップの中でも非常に貴重な Super 160’s + カシミア = Swan Hillの廃番生地だからである。
260g/mという非常に軽快なウーステッドながら、そのこぼれ落ちるような柔らかさや極上の光沢感はまるでカシミアのコートのように豊かだ。
薄手のウーステッドというのは、ともするとフィーリングが希薄になりがちである。当店でとにかく薄くてパリッとした強撚糸の夏物をあまり薦めないのはそういう理由である。いくら実用的でシワに強く涼しかったとして、一切の官能性がないのであれば、そのスーツには一体どんな意味があるのだろう?
だからこそ、こういうウーステッドはあまりにも希少だ。肉感、艶やかさ、光沢、滑らかな手触り、そしてヘリンボーンの絹織物のような表情。これら全てがこのライトウェイトなスーツに全て詰まっていること、これが偉大な価値である。
そしてHolland & Sherryでなければこの目付の良さと、仕立て映えする腰の強さをそれらと同時に実現することは不可能だったはずだ。
これが一流のサルトの手にかかれば、あらゆる場面でエレガントかつ洗練された印象を与える一着となるだろう。ネイビーのヘリンボーン柄のスーツなら、いつまでも変わらない美しさで手元にあるだろう。それがHolland & Sherryの生地だったことすら忘れてしまう日まで、その美しさが損なわれることはないのである。
Holland & Sherry 類まれなる2着のスーツ
というわけで今回のキャンペーンもまた、サルトリア・ピッチリーロにて開催するとしよう。もちろんサルトリア・チャルディやニコラ・ジョルダーノでのお仕立ても可能。特にチャルディとHolland & Sherryのウーステッドの相性は全くもってお墨付きである。
Sartoria Piccirillo × Holland & Sherry
(1) Brown Herringbone
(2) Navy Herringbone – Swan Hill
通常価格 664,000円 → 特別価格 499,000円(税込548,900円)
仮縫い・中縫い付き。どちらも半金でオーダー可能。
もちろんどちらも一着ずつの在庫なので早めにお問い合わせいただきたい。
お問い合わせはコンタクトフォームから。