Nicola Giordano 起死回生の物語

ある職人の登場

全く新しい物語が始まったときですら、それに気づくことは容易ではない。日々の生活は連続しているから変化に気づきにくく、私たちはその新たな兆候をうっかり見逃してしまいがちである。

ニコラ・ジョルダーノに起こった変化もまた、そのようなものかもしれない。

というのも今年ジョルダーノの工房には実に色々な変化が起こっていた。

5月、ニコラと長年に渡って仕事をしてきた共同経営者のアレッサンドロが亡くなった。彼のことはインスタグラムや映像で見たことがある方も多いだろう。

私が4月末にナポリを訪れた際にはいつも通りの笑顔と大きな手のひらの握手で迎えてくれたのだから、あまりにも突然のことであった。

それからしばらくの間、工房は大変な混乱であった。人が変われば仕事も変わる。職人たちは変わらず仕事を続けたが、やはり多くのことが混沌としていた。

そんな中である吉兆があった。

というのもある熟練した職人が彼のサルトリアの扉を叩いたのである。それはナポリのあるサルトリアで長年に渡って活躍していたが、高齢でナポリの中心部まで通うことが難しくなって引退を考えていた老職人であった。

彼はまるきり「救世主」であった。アレッサンドロを失って混沌とした工房に整然とした仕事を取り戻しただけではない。彼は丸縫いの技術をも持つ生粋のマエストロだ。もともとの美しく軽快なニコラ・ジョルダーノの仕立てに、さらなる美しさと手仕事の緻密さをもたらしたのである。

その技術の高さはもはや異彩を放つレベルである。なぜならば彼が長年つとめていた「あるサルトリア」とは、かのナポリ屈指の老舗「ロンドンハウス」なのだから。アントニオ・パニコやヴィンツェンツォ・アットリーニが活躍したあの店である。

起死回生のニコラ・ジョルダーノ

こうしてニコラ・ジョルダーノの仕立ては、格段にグレードアップした。しかし驚くべきことに、彼らはそのナポリ屈指の職人を高く掲げるわけでもなく、すっかり取り込んでしまった。ここにニコラ・ジョルダーノというブランドの面白さがある。

職人であり経営者であるニコラ・ジョルダーノにとってこの工房はドリームチームなのだ。一人親方が取り仕切る古風なサルトリアとも違えば、典型的なファクトリーとも違う。

工房の中では若手の職人が熟練の職人のもとを訪れては教えを乞う姿が幾度となく見受けられるし、それはニコラ本人も例外ではない。彼自身が、彼の雇った職人に意見を聞く。代わりに彼の新しいアイデアが職人たちの刺激になり、仕立ては高みへとのぼっていく。

これまで当店ではニコラ・ジョルダーノはどちらかといえばエントリーラインという扱いだった。しかし断言しよう。彼らの服は一流だ。新鮮な空気と、溢れ出るような情熱と、伝統的な技術の継承が生み出す新しい芸術である。

というわけで次回から数回に分けて、ニコラ・ジョルダーノの作品を紹介しつつキャンペーンを盛大な開催していこう。今回のキャンペーンは生まれ変わったニコラ・ジョルダーノの仕立てを体験してもらうためのスペシャルな機会……わかりやすく言うならば、とてつもなくお得なものになる予定である。

キャンペーンのスタートは勿論、総合芸術のポロコートだ。