美しいだけのポロコートならばいくらでも存在する。しかし、記憶に鮮烈な印象を残すようなポロコートは数少ない。
私は正直なところ、ポロコートフリークとは言えない人間だった。どちらかといえばチェスターフィールドコートを愛していたし、シンプルさの中に美しさを見出していた。
しかしニコラ・ジョルダーノの「起死回生の物語」の後、この作品がナポリから届いたとき私はついにポロコートに負けることになった。一目惚れである。
美しさは決して引き算だけで生まれるものではない。というより、私たちはそのような「引き算しきれないもの」をやはり愛してやまないのである。ポロコートのディテールは実に愛嬌があるし、情緒がある。だからそれが職人の手作業で限りなく丁寧に仕上げられたとき、人間は魅力を感じずにいられない。
ポロコートの最大の特徴はその様式美にある。優雅な文化の中でしか生まれることのなかった数々のディテールと、この堂々としたラペル。全てが実に華やかで、そして貴族的な遊び心に溢れている。
Nicola Giordanoのポロコートは今までも素晴らしい仕上がりだった。しかし今回届いた作品はまた一つ違う空気感を持っている。というのも、一着一着から貴族的な雰囲気が漂っているからである。
大袈裟な表現かもしれないが、しかし決して誇張ではない。これまでのNicola Giordanoのポロコートに見られたあの軽快さと柔らかさ、そして色気あふれる仕立てをベースに、もう一つの世界観である「貴族的な優雅さ」がすっかり染み渡っている。
そしてこれは明らかにあの、ロンドンハウスで活躍してきた老職人の仕事である。あの重々しいアトリエ、そしてそこに通う紳士たち。彼らのニュアンスが確実に吹き込まれたポロコートだ。
(ついでにもう一つ、ここにオフレコの話を書いておこう。プロフェソーレ・ランバルディが限定展開しているNicola Giordano のポロコート、型紙に関してはかの有名なマエストロが引いたものを使っている。国宝級の型紙と、伝説的な手の生み出すポロコートが美しくないはずがない)
そういうわけで今回はお待ちかね、ポロコートのキャンペーンである。
1. A Certain CashWool – ある明確な意味を持ったカシミアウール
随分と昔の話だが、私はどうしてもポロコートを仕立てたいという友人を連れてかのアントニオ・パニコのサルトリアを訪れた。そこでマエストロが、友人の持ってきた生地を見て「最高だ」と唸ったのを私は鮮明に覚えている。それはまさにこんなツイル模様のカシミアウールだった。
そのとき私はふと考えた。そういえば私があのランバルディ夫人から譲ってもらい、冬になると擦り切れるほど着用している30年もののポロコートもまた同じようなツイル模様のウールカシミアだったのだ。
それからというもの、ツイル模様の美しい生地を見つけるたびに私はこの二つのエピソードを思い浮かべるのである。そしてナポリにおいてこのアイテムが持つ特別な意味を想像しては、実に神秘的な気分になるのである。
だからポロコートを思い浮かべたとき、私が最も推したい生地はこのカシミアウールだ。この美しい光沢を放つ柔らかく目の詰まったコート生地を見つけた時、私はすっかり虜になった。
それからすぐに自分のポロコートに仕立てようと企み、またその数分後には自分がくだんのグレーのツイル模様コートを持っていることを思い出した。そうしてこの生地は、キャンペーンの第一弾を飾ることになったのである。
一体なんの生地だったかも、もうわからない。わかっていることは、これほど心を魅了するポロコートにうってつけのカシミアウールが現れることはもうないだろうということだ。
A Certain Cashmere & Wool – ある明確な意味を持ったカシミアウール
Nicola Giordano Polocoat MTO 通常価格 450,000円 → 年末特別価格 270,000円(+税)
※仮縫い付きMTMは20%UP
2. Not One of Them – 唯一のパールグレー
この美しいカシミアの色を表現する言葉は一つしかない。”Grigio Perla” すなわちパールグレーである。これは過日コーヒーを飲みながらマエストロ・チャルディと話していたことだから疑いない。
ポロコートは存在感のあるコートだが、ともすると無難なものを選んでしまいがちだ。気がつけばネイビーのポロコートだけがずらりと並んだワードローブの前に立ち尽くす、なんていう悲劇も起こりうる。
だがこのパールグレーはどうだろう。これは明らかに Not one of them – 大勢の中の一つではない存在だ。
優雅さ、気品高さ。カシミアの色気ある光沢感。全てが一線を画している。ネイビーやグレーのニットの上に羽織れば、あまりにも貴族的なバケーションスタイルになる。
正直なところサルトリア・チャルディの仕立てならば躊躇しても当然だ。あまりにもオーダーするのに勇気がいるし、着るときにももう一度勇気を振り絞らなければならない。コートに合わせて後部座席の広いロールスロイスをオーダーするわけにはいかないのだから、あまりにも道すがらで気を使いすぎる。
だがNicola Giordanoのポロコートならどうだろう。勿論決して安い服ではないが、挑戦する価値はある。
なぜなら今ではこの値段でサルトリア謹製のカシミアコートをオーダーすることはほぼ不可能だし、何よりも唯一無二の存在感を持つ特別なコートを手にいれるにはあまりにも魅惑的な値段だからである。
Not One of Them – 唯一のパールグレー
Nicola Giordano Polocoat MTO 通常価格 514,000円 → 年末特別価格 289,000円(+税)
※仮縫い付きMTMは20%UP
お問い合わせはコンタクトフォームから。
明日(2024年12月19日)は引き続きポロコートの生地を紹介していこう。お楽しみに。