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The Linen Attire – リネンの正装
リネンは正装だ。
あるナポリの老舗洋品店で昔こんな言葉を聞いた。そのときにはもう私はリネンを愛していたが、しかしそこまでリネンの重要性を知ることはなかった。
いくらか昔の話だ。私はマレーシアの離島のホテルで数日を過ごしていた。それはプライベートビーチの付いた実にエレガントなホテルで、夕方には毎日サベラージュ(細い剣でコルクを抜栓すること)でシャンパンがサーブされるような場所だった。
開放的なリージェンシー様式の庭園からは黄金に光る海が見え、ビーチサイドを彩るヤシの木々の下では、洗練された世界中のゲストが思い思いの時間を過ごしていた。
そしてシャンパンがサーブされる18時半に、私は他のゲスト達と共にエントランスのテラスでグラスを受け取ると、近くにあったテーブル席に腰掛けていた。
そのとき私はナポリのサルトリアで誂えた完璧なリネンスーツを着ていた。ちょうど上の写真の左のジャケットと同じエクリュのリネンで、そのときまでには随分と着込んですでに良い味わいが出ていた。
そこから起きたことはシンプルだ。このホテルのゲストたちが自然にそうするように、ふと隣の紳士と挨拶を交わしたのである。果たして彼はイタリア人だった。それも、そのときの文化庁大臣であった。
彼は随分と私のことを気に入り、私の装いを誉めてくれた。それからというもの彼とは家族ぐるみの親交が続き、ローマを訪れるたびに美しいレストランを紹介してくれたり、ミュージアムや普段公開されていない文化遺産に至るまで多くのものを見せてくれたのである。
このときから私にとって、リネンのジャケットやスーツはただの洋服ではなく Linen Attire リネンの正装 となった。
エレガントな場所を訪れる春夏の日、あるいは常夏の場所においてThe Linen Attireを身に纏うことは、その場所で最も優雅で洗練された装いをすることだ。
そしてニコラ・ジョルダーノの仕立てが、そこに素晴らしいナポリのエッセンスをもたらしてくれるだろう。
3 Linen Herringbone Suits – 3つのリネンスーツ
さて、本日は3着のリネンスーツから紹介しよう。
砂漠の砂のように輝くエクリュ、朝露の森をイメージさせるブラウン、そして高尚な黒である。
これらはすべて色違いの美しいアイリッシュリネンだ。着込んでいくとまるでその歴史を刻むようにゆっくりと色落ちしていく。アイロンによるプレスと着用を繰り返すことで、一着のスーツが一人の人間の自叙伝になると言っても良い。
しかし何と言っても特筆すべきは、実に印象的な幅広のヘリンボーンだ。ヘリンボーンのリネンスーツ生地は珍しい。時に平坦になりがちな無地のリネンスーツを華やかに格上げしてくれるし、光の当たり方でさまざまな表情を見てくれる。
当店では数あるリネンを紹介してきたが、ヘリンボーンを三着まとめて紹介できるのは今回が最初で最後だろう。
Noble Black – 高尚な黒
まずは黒から始めよう。
美しいホテルには格式高いレストランが必ず付属している。あのマレーシア離島のホテルも海辺の水上コテージに白い高級レストランを備えていた。そのようなレストランにおいて、あるいは五つ星ホテルが用意している重厚なメインバーにおいても黒のリネンスーツは最上のエレガンスである。
そもそも日本では冠婚葬祭のイメージもあって、黒のスーツを忌避する人も少なくない。確かにウールの黒スーツは重い雰囲気になることもあり、仕事でも着用しにくい。
しかしリネンスーツにもなると、黒は一転して最も使いやすい色だ。リネン特有の自然なシワ感や軽やかさを楽しみつつも、派手な印象にならず、むしろクールで洗練された着こなしをすることができる。夜に着ていても浮つかないし、昼の太陽の下でもリネンの素材感のおかげで重さを見せない。
軽やかな白シャツを合わせて着てもいいし、あるいは白のカプリシャツやポロシャツを合わせてジャケット無しでも優雅に着こなせるようにするのが最高だ。
日本ならスリッポンのレザーシューズやスニーカーを履こう。誓って言うが、南国ならば泊まるホテルがリッツカールトンでも、フォーシーズンズでもリネンスーツの足元はビーチサンダルが良い。それが正装だからだ。
Relieving Brown – 解放するブラウン
一方ブラウンには人を日常から解放する力がある。
それは言うなればシダーウッドやカルダモンのアロマティックな香り、浅煎りモカ・コーヒーの力強く引き上げるような酸味と苦味、小鳥の羽音や木々のざわめき、あるいは庭を走り回るリスの鳴き声のようなものである。
ブラウンは優雅だが、それ以上にリラックスした空気だ。着ていることで自分自身だけでなく、周りの空気感まで和らげてしまう。かと言って洒脱すぎないトーンだから、あらゆる場所に絶妙に溶け込んでくれる。このスーツは海沿いでなくても、マウンテンリゾートでもあまりに優雅だ。もっと言えば都会の公園を散歩するときですら、これほど活躍するスーツはないだろう。
ブラウンのリネンスーツならば、白シャツだけでなくライトブルーのシャツも引き立ててくれるだろう。靴も黒リネンに比べると明るいものを許容してくれる。例えば白系のギリーシューズとか、アイボリーのヌバックローファーといったアイテムだ。
ここでもまたヘリンボーンの織り柄が効いている。ブラウンでありながらも華やかさや洗練された空気感を纏うのは、光を浴びるたびにヘリンボーンがキラキラと輝くからである。
着こなしていくごとにほんの少しずつ色が淡くなっていくだろう。そしてブラウンの色味が今よりも幾分かトーンアップしたころには着る人自身もまた様々な経験を経て、その色が似合うようになっているはずだ。
Astonishing Ecru – 目を見張るエクリュ(売り切れ)
結局この色のスーツを着るシチュエーションはそれほど多くない。どうしたって目立つし、いかにも洒落っ気があって季節感が強い。しかし、だからこそこのスーツを着こなしたときのインパクトは強大だ。
それに着慣れてさえいれば、意外と周りの雰囲気はこのエクリュベージュもすっと許容してくれる。なぜならこれは無染色のリネンに最も近しい自然な色だし、日々の生活はこの色に満ちているからだ。この世界はエクリュのリネンに寛容なのである。
だからこの生地で仕立てたリネンスーツは明るく華やかだが、人の心には驚くほどすんなりと入ってくる。着ている人の気持ちや、その人が愛するエレガンスを周囲の人が自然に理解できるのだ。
このオーガニックさ、これはウールであれば同じようにはいかない、コットンですらもリネンより浮かび上がるような雰囲気だ。
この生地も色で言えばピークドラペルのジャケットとほぼ同じだが、唯一異なるのはヘリンボーンであることだ。ヘリンボーン織柄のおかげでもっとカジュアルな雰囲気になるかと思いきや、そのスーツ生地的なニュアンスでむしろドレスライクに見えるのが不思議だ。
これで仕立てるのはもちろんピークドラペルのスーツでも良いし、通常の3つボタン段返りでも良い。キートンやチェザレ・アットリーニのような優雅さを目指すならダブルブレスレットのスーツも良いだろう。
今日紹介した3つのスーツはいずれもデニムの上にジャケットのみで着こなすことができるし、逆に他のジャケットのトラウザーとして活用することもできる。そして3つのうちで最もデニムと相性が良いのは、この目を見張るエクリュのリネンジャケットだろう。
3 Linen Herringbone Suits – 3つのリネンスーツ
Nicola Giordano Suit MTO 通常価格 470,000円 → 年始特別価格 298,000円(+税)
※仮縫い付きMTMは20%UP
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