Sartoria Borbonica 休日の美術館ドライブに着るコートの選び方

こんにちは、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の大橋です。

個人的に惚れ込んだからといって、このラグランコートをもってあの誇り高いポロコートと真っ向勝負させるつもりはありません。

しかしある場面において、このラグランコートが非常に使いやすく、そして実に自然にシーンに溶け込むということを、皆さんにお伝えしようと考えたのです。

土曜日の美術館に着ていくコートは?

ある時、ラッキーなことにこの静岡の小さな美術館にカラヴァッジョの名画が展示されることになったとします。

…いや、あの憂鬱で残酷な絵画は少しイメージに合わないので、静岡らしくブリューゲル展にでもしましょう。(はて、どうして静岡の人はオランダ絵画が好きなのだろう?)

そして土曜日、冷たい風が吹いていて何となく陽の陰った中でドライブがてら美術館に行く。そんなときに着たいコートはどんなものだろう、とそういうわけです。

もちろんチェスターフィールドやポロコートも良いでしょう。しかしこのラグランコート はきっと、とても良い選択になります。

まずはそのリラックスした雰囲気です。

土曜日にドライブがてら美術館に行くのなら、必ずしもスーツやジャケットをばっちり着こなしてネクタイを締める必要はありません。

むしろニットに、デニムに、レイジーマンシューズ(怠け者靴)という素晴らしい名前を授かった不運な靴を履いておもむろに家を出るのがお洒落なのです。

そんなときに映えるのがこんなラグランのコートなのですね。

ラグランのコートは、その他のテーラーメイドのアウターに比べると、断然リラックスしています。

ラグランスリーブはショルダーラインを滑らかに丸く見せ、そこには明確な「肩」というものが存在しなくなるのです。

「肩を怒らせ」「肩を落として」「肩をすくめて」など肩はのべつ感情の表現に使われます。まるでそれがもう一つの顔であるかのように。その肩を丸く覆ってしまえば、リラックスして見えるのは当然なのです。

ポロコートやチェスターフィールドコートの中でも仕様の凝ったモデルはオーセンティックな性格を持っています。それはつまり、正統派ジャケットスタイルに相性が良いということです。

それに対してこのコートは実に懐が広い。このたっぷりとした身頃の中に厚手のニットと寒さゆえに行き場のない両手、それから平日の疲れと冬の怠惰とをすっかり包み隠して、それでもなおゆとりがあるのです。

しかしなお素晴らしいのは、サルトリア・ボルボニカの絶妙な塩梅ゆえに、このコートのラペルが定番のラグランコートには見えず、ナポリ仕立てのアルスターコートのようにさえ見えることなのです。

リラックスしていながら、ビスポークらしさを感じる一着。すでに個人的にも手放せなくなっています。

なに?

どうせコートはそれ一着しか持っていないんだろうって?

「まあさ、とにかく、ひとつ縫いつけてみておくれ、どうしてそんな、ほんとうにその……」
「いやだめでがす。」と、ペトローヴィッチはそっけなく言いきった。「何ともしょうがありませんよ。まるっきり手のつけようがありませんからねえ。冬、寒い時分になったら、いっそこいつで足巻でもこさえなすったらいいでしょう。靴下だけじゃ温まりませんからねえ。これもあのドイツ人の奴が少しでもよけい金儲けをしようと思って考え出しおったことですがね。(ペトローヴィッチは機会あるごとに、好んでドイツ人を槍玉にあげた。)ところで、外套はひとつぜひとも新調なさるんですなあ。」
この【新調】という言葉に、アカーキイ・アカーキエウィッチの眼はぼうっと暗くなり、部屋の中のありとあらゆるものが彼の眼の前でひどく混乱してしまった。彼はただ、ペトローヴィッチの嗅ぎ煙草入れの蓋についている、顔に紙を貼りつけられた将軍の姿だけが、はっきり見えるだけであった。「どうして、新調するなんて?」と、彼はやはり、まるで夢でも見ているような心持でつぶやいた。

「外套」ゴーゴリ

私の擦り切れたコートを、やくざな仕立て屋のペトローヴィッチが「新調」などとは言わず、直してくれさえすれば、着るものはたくさんあるのですが…。

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