【ご納品】Sartoria Piccirillo 優雅なる麻ジャケット

思い切って贅沢をするときに、王道以外の道を選ぶというのは実にハードルが高いが、それゆえにエレガントだ。

例えばそれはイタリアンレッドではなく濃紺のフェラーリを選んだり、あるいは一大ブームの時計ブランドを差し置いて通好みなマニュファクチュールの時計を選んだりといった具合だが…..今回のジャケットはまさにそういう潔いエレガンスを感じる1着だ。

ハリソンズのバンチの中でも異彩を放つこのリネンは、色味はもちろんのこと大柄のグレンチェックとリネンの風合いが絶妙にマッチしていて美しい。

これがウールならばきっと大柄すぎて主張の強い1着になっただろう。しかしリネンのオーガニックな質感のおかげで、まるで的の中心を射るかのように丁度良い。麻の質感に溶け込むことで魅力を増す色柄というのはたくさんあるが、これは唯一無二の存在感を放っている。

(そこが赤ではなく濃紺のフェラーリを選ぶ様な、と表現した所以だ)

そして完璧な柄合わせと、サルトリア・ピッチリーロの立体感である。ハリソンズのリネンは、まるで往年のアイリッシュリネンのように目が詰まっていて、仕立て映えがする。

さらにサルトリア・ピッチリーロの仕立ては比較的ハリコシのある芯地を手縫いで据え付けていくので、こういった軽い生地との相性が抜群だ。リネンとは思えないほどのドレープ感と、胸周りのボリューム、そして立体的な肩周りの造形で見ていて飽きが来ることがない。

後身頃を見れば背中の曲線に合わせて、丁寧なアイロンワークがなされていることが分かるはずだ。首周りがまるでバロック彫刻のようにドラマチックで、そこから肩にかけてのラインはさながらカノーヴァの作品のようだ。

ナポリ仕立てのリネンといえば、アンコンストラクテッドである意味シワを楽しむというニュアンスが強いように考えられている。しかしサルトリア・ピッチリーロの仕立てるジャケットは、あくまで堂々たる美しさだ。クラシックなネイビーのリネンで仕立てれば、まるきり仕事でも使える雰囲気になる。

そこにあえて、この唯一無二のグレンチェック生地を選んだ。だから今回のジャケットはUn mondo…すなわち「新しい世界」になったのである。堂々としたクラシックであり、大胆なグレンチェックでありながら、リラックスした休日のリネンジャケットである。

幸いなことに、この素晴らしい生地はまだオーダーが可能である。私もまた個人的に仕立ててしまおうか…という誘惑に負けそうになっているところだ。

そうでなくても、私の手元にはこのような新しい世界を生み出してくれる面白い生地が沢山ある。それらについてはまた追々紹介することにしよう。