ナポリの偉大な医学教授と彼のワードローブ
これが本当にあった話と、皆様に信じて頂けるかどうか、確信はありません。今思い出しても、それは不思議な出来事だったからです。
ある時、私がナポリを訪れるにあたってちょうど良いホテルを探していると、ふと目に留まる場所がありました。
それは至ってリーズナブルなB&Bでしたが、写真で見ただけでも部屋、家具など全てが最高級品で、美しくそして素晴らしいテイストであることがわかりました。
実際に訪れてみたそのB&Bは、(最初の印象からしても)写真以上に素晴らしい場所でした。しかし今思えばそこには、単なる「美しさ」を超えた物語があったのです。
ジュゼッピーナとの出会い
ナポリ湾を目前にした歴史あるヴィラの中に、ネオ・クラシック様式を始めとした古典的なスタイルの家具で統一された、知性と優雅さを感じる部屋。どうしてこれがリーズナブルなB&Bでありえるのか、最初は理解できませんでした。
そのうち、私は一人のご婦人ジュゼッピーナと出会いました。彼女はもう80歳にもなろうというのに非常にアクティブで、かつ知的な女性です。典型的なナポレターナの陽気さ、情の厚さを持つジュゼッピーナは、このB&Bのオーナーでした。
なるほど実はこの建物は、ジュゼッピーナとその亡くなった旦那さんの(ゲストルーム付きの)自宅だったのです。
ジュゼッピーナは私に実にたくさんのお話をしてくれました。彼女の旦那さんは偉大なドクターであり、稀代の素晴らしい教授であったこと。そして彼はたくさんの生徒を持ち、ナポリのある病院には彼の名前を冠した部屋さえあること。
彼の写真を見せてもらうと、彼は一見してもわかる素晴らしいナポリ仕立ての服を、大変エレガントに着こなす紳士でした。
そして、彼のワードローブに
するとジュゼッピーナは、おもむろに彼のワードローブを見せてくれました。
「私の夫は最もエレガントな紳士だったわ。彼はヴィンツェンツォ・アットリーニのところで何着も服を作って、マリネッラのネクタイを結んでいた。ほとんどはもう片付けてしまって、ここに残っているのは一部だけ」
私は彼女に聞いて、そのジャケットを一着手に取りました。これまで何百ものナポリ仕立てを見ていながら、見覚えのないタグ。アットリーニからほど近くフィランジエーリ通りにあるということだけが分かります。
私はまた彼女に聞いて、ジャケットを試しに羽織ってみました。その時の驚きようといったら、到底言葉にできるものではありません。肩幅から袖丈に至るまで、サイズがぴったりだったのです。
その様子を見たジュゼッピーナは一言。
「ここにある全部、あなたにあげるから持って行きなさい」
ちょうどナポリ湾に昇りきった太陽の光が、眠っていたワードローブを照らして、その服たちが息を吹き返したかのように見えたのを、私は覚えています。
彼のエレガンスに敬意を表して
私は頂いた20着あまりものナポリ仕立てのジャケットやスーツを日本に送る準備をしながら、あることを考えていました。
それは、この服を頂くからには、私が写真で見ただけでも感銘を受けた彼のエレガンスをぜひ日本で継承していこうということです。
そこで私はジュゼッピーナに許可をもらい、ナポリに育つ新たな世代のサルトリア達と歩むこのお店の名前を決めました。
偉大なドクターであり、稀代のエレガンスを持つ紳士であった、ランバルディ教授に敬意を表して。
Professore Rambaldi
– Bespoke & Experiences in Honor of His Elegance
ジュゼッピーナから頂いた彼のジャケットやネクタイの一部は、お店で展示しています。