まったく、またネイビージャケットの話を始めようとしている。
フィリップマーロウ風に言うならば「ネイビージャケットと縁を切る方法は未だ発明されていない」である。それほどに重要度が高いが、いささか食傷気味に思われるだろう。
だがビンテージのDRAPERSだ。それにこれはネイビーではなく、インディゴの世界観である。そんなことわり書きを冒頭においたところで、デニムの幻想にすっかり取り憑かれた二着分のウーステッドカシミア・シルクについいて書き始めるとしよう。
Denim Dream
デニムというものは、まったく奇妙な存在だ。
明らかにカジュアルな生地であるにも関わらず、愛されるが故により「エレガントな存在へと昇華しよう」という試みが幾度となく為されてきた。
ロロピアーナのようにウールやカシミアをコットンに混紡することで更に贅沢なデニムを織り上げたメーカーは数知れない。
ブルネロクチネリもゼニアも、こういった類のデニムにすっかり熱を上げている。もっと広く見ていくなら、ジャンニ・アニェッリの孫ラポ・エルカーンがフェラーリにオーダーしたデニム内装の特注車を思い浮かべても良いだろう。
一方でこれはDrapers ドラッパーズで働く道楽じみた人物が……おそらくあのやり手の社長 Domenico Lolli ドメニコ・ローリがすっかりデニムの幻想に取り憑かれながらデザインしたカシミア・シルクである。
いつもながら最上級のカシミアとシルクの組み合わせは、とろけるような感覚をもたらしてくれる。
ウーステッドカシミアの滑り落ちるようなしなやかさとシルクの輝きの組み合わせは、あまりにも色気があり艶やかだ。まるきりデニムとは対極にある、エレガントの極みという印象である。
そんなカシミアシルクがデニムの幻想に囚われると、こういう生地になるわけだ。一見すればラグジュアリーなカシミアジャケット。しかしひとたび光が当たれば、デニムのようなインディゴブルーが浮かび上がり、美しくととのった織り模様から言葉にならない洒脱感がこぼれ出す。
色について、もう少し見てみよう。
明るい方は少し色落ちしたデニムを思わせる、Faded Blue Indigo フェイデッドブルーインディゴともいうべきカラーだ。
透明感のある深い藍色にアイスブルーの糸が浮かび上がる姿は、サファイアのように高貴な雰囲気だ。しかし全体として見れば、その表情はあくまでデニムである。
この絶妙なバランス感が、このジャケットを唯一無二のものにしてくれる。
これは背抜きにして生地感を楽しむべきだ。明るい色の裏面がジャケットの内側に来る様子を思い浮かべると、あまりにも心をくすぐられる。
濃い方はRigid Navy リジットネイビーとでも呼ぼう。非常に暗いネイビーの中に鮮やかな糸が浮かび上がる姿は、ちょうど織り上げたばかりの上質なデニムを思わせる。
全体としてはかなりシックで洗練された色だが、かと言って普通のカシミアウーステッドとは明確に異なる雰囲気を持っている。全体のトーンもネイビーとグリーンを彷徨うような特徴的な印象だ。
これもまた、背抜きで仕立てたいジャケットだ。ちょっと冒険するのであればピークドラペルやダブルのジャケットも良い。
クラシックな中に浮かび上がるデニム的なカジュアルさを、タートルネックやポロシャツのようなアイテムで着こなすのが粋である。
個人的には黒やダークネイビーでまとめたモダンなコーディネートの中に取り入れたいジャケットだ。
デニムの幻想 Cashmere & Silk by ドラッパーズ
Drapersのカシミアシルクというもの自体が、もはや絶滅危惧種になりつつある。もうこのような美しいジャケット生地は作られていないし、ドラッパーズという神々しい存在自体が幻になりかけている。
これはまるで一つの王国が、最も繁栄した時期に贅を尽くして完成させた宝物(ほうもつ)のようだ。
そして私はこうしてまた、博物館に展示されるような幻の生地を、ちっぽけな店のガレージセールで店先に並べるのである。だが今回は構わないだろう。これがデニムの幻想に囚われて織られた生地にふさわしい会場だからだ。
Sartoria Piccirillo Bespoke MTM ジャケット 仮縫い&中縫い付き
① Faded Blue Indigo フェイデッドブルーインディゴ
合計614,900円 → 特別価格 430,000円(税込 473,000円)
② Faded Blue Indigo フェイデッドブルーインディゴ
合計614,900円 → 特別価格 430,000円(税込 473,000円)
もちろん各一着分ずつである。用尺が短めなので、Tg. 50以上のサイズの人は応相談だ。
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