8月は終わった。でも9月はまだ始まらない。私たちの心は、そんな場所を彷徨っている。
しかしそれでも構わない。人間の心が常に理想的であることはできないし、焦燥感や喪失感の中にも人間らしさが潜んでいるのだから。
……さて、忘れられない物語だ。
8月には6回にもわたるキャンペーンを開催したが、いくつかの生地は「深淵なる思慮」を経て、Hanno cambiato(変更された)。
このようにして、売り切れたと思いきやランバルディの生地棚に残った生地達を、改めて紹介しよう。
難しいことはしない。ただ再掲載して、もう一度皆様の目に留めるだけだ。だがせっかくだから置き土産をしよう。
※キャンペーン終了しました。
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Unique & Secret Classic No.1《Victory Again》
ビンテージを巡る熱狂の中で採掘され尽くしてしまった、Holland & SherryのVictoryという生地がある。非常に評価の高い生地で、当店でも随分多くを扱ったが、これに関しては完全に「売り切れ」てしまった。
だからこそこの生地を見つけた時の私の喜びは、文字に起こすことができないほどだった。
これはSuper 160’s ウールとカシミアを低速織機でゆっくりと時間をかけて織り上げた生地で、わずかに起毛感のあるウーステッド…….そう、まさにSupreme Victoryそのもののクオリティなのである。(もしかしたら光沢感はそれを上回るかもしれない)
この生地を織ったWOODHOUSEとHolland & Sherryのつながりは不明だが、Victoryを手にしたことのある人ならばこの生地が「Victoryと全く無関係」であると言われてもきっと納得いかないだろう。それほどまでに酷似している。
秘めたる意志のようにわずかに感じる力強いウーステッドの質感、それを包み込む滑らかなカシミアの手触り。そして一見して特殊な生地であることがわかる光沢感。
この美しい生地感に、うっすらと浮かび上がるグレンチェックの雰囲気がたまらない。うっすらとアクセントのペーンが入っているが、それもまたヴィンテージ感があって美しい。
この生地で仕立てるスーツがどれほど美しいか、くどくど説明する必要はないだろう。ダイアモンドがどのように輝くかを文章で説明するようなものである。
しかし一つ付け加えておくなら、この至宝の生地には最高峰の手仕事が必要だ。マエストロ・ジャンニ・ピッチリーロが仕立てるスーツのような。
Colore Impeccabile No.2《Pied de Poule》
エレガントさではNo.1のゼニアに叶わないかもしれないが、個人的に最もよく着るグレーはこのPied de Poule=千鳥格子だ。
千鳥格子ほど多様な側面を見せてくれる色柄はない。特にそれがモノトーンであるグレーにもなればなおさらだ。
単調なソリッドのグレーと同じようにスーツで着こなすことができるにも関わらず、着こなしを工夫すれば崇高な英国のビスポークのオマージュに見せることもできるし、あるいは軽快にイタリア的な雰囲気を醸し出すことも可能だ。
また通常のウーステッドであれば難しいジャケットの単体使いも非常に容易になる。デニムやチノパンに合わせて、それにグレー無地のトラウザーに合わせて着こなすにもソリッドよりも数倍着こなしやすい。
これは私たちが親しみを持って愛するHarrison’s of Edinburghのフロンティアという300g/mの生地で、実用的かつエレガントな絶妙なラインを突き抜けるウーステッドだ。(Holland & Sherryにおけるクリスペアのようなものだ)
強撚糸なのでシワに強く通気性が良い。また腰が強くてスーツになったときに描くラインは実に立体感に富んだものだ。かといってよくあるフレスコ生地のように沈んだ風合いではなく、滑らかな風合いと優雅な光沢を兼ね備えている。
この絶妙なバランスを、私たちがどれほど強く求めているか思い出して欲しい。そうすればこの素敵な千鳥格子が、もっともっと魅力的に感じられるだろうから。
La Grande Bellezza No.2《Super 150’s + Cashmere Herringbone》
だがもし自分が、最も格式高い類のビジネススーツを仕立てようとするなら、やはりこの1着を選ぶに違いない。
もう30年も前に織られた、Super 150’s + カシミアのウーステッド。それも340g/mの素晴らしい目付けと、パリッと角が立つような目付けの良さを持った、文句なしの英国製ウーステッドだ。
このウーステッドの美しさは、何よりヘリンボーンにある。一般的なヘリンボーンよりもぐっと主張を押さえ、抑揚を演出することに徹するドレッシーなヘリンボーンは逆に艶やかで色気がある。
まるで底知れぬ知性を秘めながらも、あえて語ることをせず、生き方そのものだけで表現している生粋の紳士のようだ。
光の当たり具合で表情を変える、限りなく黒に近いチャコールグレーも実に素敵だ。太陽光の下ではグレーを強く感じるシックなトーンに。夜のライトの下では一気に濡れたような光沢と深みが現れる。
この無名な英国製生地を使って仕立てるならやはりクラシックなスーツだが、ダブルも良い。この生地の腰の強さで究極のドレープを描くことができるからだ。
それにSuper 150’s にカシミアの入った最高級の贅沢品だが、これで仕立てたスーツは10年後もきっと活躍しているだろう。そしてその頃にはこの控えめな色気を湛えるクラシックスーツを、今よりもずっと深く愛するようになっているはずだ。
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