果たして無事2023年に成った。
しかしイタリアというところは、いつまで経っても変わらない。
どんなに忙しいビジネスマンも仕立て職人も、学生も老人も朝は一杯のエスプレッソから始まる。一度家族や友達との食事が始まれば皆スマートフォンのことなどすっかり忘れて、ワインやフォークを持ったままの手をブンブン振り回しながら会話に熱中している。
夜ベッドで寝る直前まで盛んに話をしていた40代の夫婦は、朝起きると朝ご飯のクロワッサンを食べながらまるで数十年ぶりに会ったかのようにとめどなく話をしている。毎日一緒にいる家族間でどうして一向に話題がつきないのか。これは世界中が解明しようとしているイタリア最大の謎である。
さて、生地である。私はもはや何度目かもわからないイタリア出張で、ありとあらゆる場所の生地を発掘している。素晴らしいビンテージ、希少なデッドストック、流石にこれだけ発見すれば底をつくのではないか?というほどである。
しかしイタリアの美しい生地達はなぜか尽きることがない。何度買い占めてもいつの間にか(どこからか)素晴らしいストック達が入荷し、怪しげな生地店の親父達が「待っていたよGiapponese。一体どこへ行っていたんだ?」と微笑むのである。これは私のイタリア出張のおける最大の謎である。
そういうわけで新春の初売りキャンペーンとして、イタリア出張の戦利品達を紹介していこう。
(今回掲載している生地は全て、どのサルトリアでも仕立て可能である。詳しくはお問い合わせを)
Holland & Sherry Vintage Cashmere & Silk Jacket
一着目から恐ろしく貴重なビンテージである。今やほとんど手に入ることがなくなってしまった往年のHolland & Sherry、それも贅沢なカシミアシルクのジャケット生地である。
グレーがかった気品高い青に、カシミアの(それもビンテージ・カシミアの)とろけるような滑らかさと、宝石のようにきらきらと輝くシルク。ナポリの某所で発見した瞬間には、あまりにも鮮烈な存在感に息をするのも忘れてしまうほどであった。
これが現行のDrapersのカシミアシルクであったとしても、私はこの色合いに惚れ込んで仕入れたことだろう。だがこれがHolland & Sherryのビンテージであるとわかった時の私はむしろ困惑していた。
このような美しい生地を売らなければならないのだから、洋服店の店主は時に悲しい仕事だ。レオンカヴァッロのオペラで主人公が、自分が道化師であることを嘆き悲しむ歌“recitar!”の気持ちが少し分かる気がしたものである。
Sartoria Piccirillo Jacket MTM 仮縫い付き
※現在サルトリア・ピッチリーロは混雑のため、通常よりも納期が掛かっております。
Marrone Quadri Vintage Wool, Cashmere & Silk Jacket
一転して、今度はもっと雰囲気を楽しもう。まるで古都フィレンツェのルネサンス建築を見ているような、懐かしいウール・カシミアシルクだ。
カッパーブラウンにクラシカルなチェック柄。そして混紡されたカシミアとシルクの滑らかさ、光沢感が実に優雅である。既製服でうっかり見かけたら、心がすっかり取り憑かれてしまうような洒脱な雰囲気だ。
これもあのナポリの、観光客が絶対に足を踏み入れないようなビンテージ生地店で手に入れた一着分である。(つまりはナポリの有名な…..ラグジュアリーブランドの流れもの生地というわけだ)
こんなジャケットをデニムやチノパンに合わせて着こなし、サングラスをかけてエスプレッソを飲みに行けば、まるきりナポリのミッレ通りを歩いているダンディな中年男達である。
イタリアの空気が必要だ。
日本で仕事に熱中していると、ときどきこういう楽しみ方を忘れてしまうことがある。シックでオーソドックスなものだけが全てではない。そんなことを皆に思い出してもらうのも、洋服屋の仕事である。私たちの人生にはイタリアの空気が必要なのだ。
Sartoria Caracciolo Jacket MTO
サルトリア・カラッチオーロのMTOは、既成サイズから選んで好きな仕様でオーダー可能。クオリティはビスポークと同様。
Wool & Silk Light Tweed Jacket
この生地との出会いは衝撃的だった。ローマのノメンターナ地区にある、誰も行かないような生地店にうっかり立ち寄ったときのことだ。数々の生地が積まれた棚の中から、まるで吸い込まれるようにこの一着を手に取った。
まるでスコティッシュ・ツイードのように表情豊かなネップ感でありながら、しっとりとしたラグジュアリーな手触りと軽さ。見たことのないような質感である。
そしてこの地中海のさざなみのように美しいネイビーと、ヘリンボーンの風合いだ。まるで太陽の光を反射する海面のように心を惹きつけて離さない。
例えばここに黒かグレーの美しいシェル……マザーオブパールのボタンをつけてみたらどうだろう。真夏の夜にアマルフィ海岸で彼女と過ごした思い出と同じくらいに、一生忘れられない一着になるだろう。
(なお小説の受け売りで私の思い出ではない。なぜならナポリの女性と付き合うのは、マエストロ・サルトになるのと同じ位に難しいのだから)
NICOLA GIORDANO MTM ジャケット
通常価格 411,400円 → 307,000円(税込)※仮縫い付き。
Vintage Galles Wool & Silk Jacket
なぜだかウールシルクばかり紹介しているようだが、これは私のお気に入りだ。なぜならこれは他の生地とは違い、生粋の春夏物ビンテージだからである。
このブログではまるで仏陀が諸行無常について説くかのごとく何度も、美しい春夏ジャケット生地の希少性を語っている。ジャケット単体でTシャツの上に着てもカッコよく、白シャツでタイドアップしても美しい。そんなジャケット生地というのは本当に希少だ。
そういう意味でこの生地は最高だ。ガンメタリックともいうべき輝かしいグレーに、無駄な装飾を一切廃したシンプルなグレンチェック。どんな色のトラウザーにも似合う絶妙なトーンに、真夏にも着られる軽快さ。これほどの春夏物は、なかなか見たことがない。
生地感はシックですっきりとしたウーステッドだが、チェック柄とほんのわずかに織り目を感じさせる生地感が絶妙にマッチ
して、しっかりジャケット生地らしさがあるのが面白い。少し大柄なおかげで、トムフォードや近年のブリオーニを思わせるモダンさがある。
私ならシンプルにカットソーに合わせて、少しカジュアルダウンして着こなすだろう。
NICOLA GIORDANO MTM ジャケット
通常価格 411,400円 → 299,000円(税込)※仮縫い付き。
Holland & Sherry Super 160’s Dead Stock Suits
ホーランド&シェリーで始まった今回のキャンペーンを、ホーランド&シェリーで締めることにしよう。
これあまりにもゴージャスなSuper 160’sウーステッドだ。それもこれほどにもエレガントで気品漂うネイビーのスーツ生地であるからには、驚くべき値段で販売されたものであることは確かである。
高番手の生地らしく軽快で手から滑り落ちるように滑らかだが、そこはさすがホーランド&シェリーだ。ウーステッドの目の詰まった質感、腰の強さはあくまで英国的な仕立て映えを実現してくれる。
この生地で仕立てるスーツは、やはりシンプルなフラップポケットのクラシックな一着だ。しかしイタリアの上流階級的に着るなら、ダブルにチェンジポケット付きも良い。
いずれもほんの僅かに肩幅を広めに取り、繊細な生地のドレープ感を楽しめるよう攻めすぎないシルエットに仕立てよう。まるで羽衣のような着心地と、貴族になったかのような優雅さに浸れるはずだ。
Sartoria Piccirillo MTM 仮縫い付き
実はこれが最もお得な一着かもしれない。最後まで読んでくれた方へのプレゼントである。
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