《On HER MAJESTY’S DARK BLUE SUIT》

はたしてたった3.2mの…すなわちスーツ一着分の生地だけ取り上げてブログを書くのは無謀だし、まして写真も数枚しかないのである。シニカルなイギリス人の言葉を借りるならUtterly Pointless(まったく馬鹿げている)と言わざるを得ない。

それでもなおこのブログを書こうというのだから、なんらかのインスピレーションがあったことは間違いない。

そもそも、私はこれが何の生地か知らないばかりか、いつどこでこの生地を手に入れたかを全く覚えていないのである。生地棚からこれを引き出したときの心情といえば、まさに聖母マリアがキリストを産んだときのようであった。(一体どこから来たかわからないが、非常にありがたいぞ……!)

I have all the fabrics in the world.

洋服屋の店主になったとき、私はこのような感情を覚えたものである。もちろんこれはジョージ・レーゼンビー主演の往年007の名セリフをもじったものだが。

つまり全ての素晴らしい生地がこれで、独り占めできる…とそういうわけである。

しかし筋書き通りにはいかないものだ。なぜかお客様のクローゼットには幻のような生地のスーツが、私のクローゼットには売れ残り感の溢れる生地のジャケットがすっかり収まったのだから。

そしてこの生地もまた、いま同じ運命を辿ろうとしている。

On HER MAJESTY’S DARK BLUE SUIT

最初にこの生地が突如として現れたときには、「これでとっておきのネイビースーツを仕立てよう…他でもなく自分のために!」という考えが浮かんだものだ。

しかし次の瞬間には私の中に、ある疑念が芽生えたのである。それはすなわち、これほどに美しいネイビースーツを私が仕立てても恐らく着る機会がないだろうということだ。(ご存知の通り、私はジャケットばかり着る生活習慣だからである)

そこで意を決して、やっとこうしてブログで紹介する決心がついたというわけである。

MADE IN ENGLANDとだけ書かれたウーステッド。

300g/m弱のウーステッドだが、そうは思えないほど濃密である。冬の外気でキンキンに冷やしてストレートで飲むマッカランの原酒のように濃い(なお生地自体は春夏寄りの合物だ)。

これはまったくの持論だが、仕立て映えのするウーステッドはひんやりとした冷たさを感じるものだ。そして折り畳んだときに実にキレの良い音がする。この生地がそうであるように。

Super 120’s + Cashmereという組み合わせは珍しくないが、この高貴な手触りは稀有だ。滑らかで、そして力強い。

しかしこの生地の最も魅力的な部分はそこではない。むしろ特別感そのものだ。ぱっと見た時に漂うエグゼクティブな光沢、高貴で深い紺色、そういったものが作り上げる特別な存在感そのものが、この生地の最大の魅力なのである。

まるでロールスロイスのボディのようだ。これがスーツになり、それを身に纏うのである。生地単体で見てこの美しさだ。いせ込みや緻密なステッチワーク、ジャケットの立体感がどれほどの抑揚をもたらすか。考えただけで胸が高鳴る。

もしも来世か何かで女王陛下の横に立つ日が来たら、私はきっとこのような生地で仕立てたスーツを着ることだろう。

とはいえ女王陛下の横に立たなくても良い今世は、なおのこと幸いである。なぜならこのような素晴らしい生地をナポリのサルトリアに持っていって、洒脱で羽のように軽いスーツを仕立てることができるからだ。

だが先ほども書いたように、残念なことに私がスーツを仕立てるべき生地ではない。このブログを読んでいる人のうちの誰かが仕立てるべき生地なのだから、私はウイスキーを一杯飲んで、この高貴な生地についてすっかり忘れることとしよう…。

 

On Her Majesty’s Dark Blue

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