ある日曜日、昼下がりのリネン – The Irish Linen on a Sunday Afternoon

ある晴れた日曜日の昼下がりを思い浮かべて欲しい。

それはまだ時より心地よい涼風の吹く春先か、もしくは徐々に木々の色が深くなる初秋のことだ。

とっくに飲み終わったエスプレッソのカップを片手に熱烈な井戸端会議を繰り広げるご婦人たちに、木陰で居眠りをする老人。黒い排気ガスをごんごん巻きながら走りすぎるイタリア製のスクーターとか、毛むくじゃらでどこまでが本体か皆目想像もつかない小型犬を連れた貴婦人も不可欠だ。

埃だらけのアルファロメオが駐車している。きっと今年に入って一度も洗車していないことだろう。その奥の広場では少年たちがサッカーをしている。未来のマラドーナが思いもよらぬ方向にパスを出す。

そこだ。その先にふと、美しいリネンのジャケットを着た紳士が現れて、転がってきたサッカーボールを少年たちに革靴の側面で蹴り返す。

さてそれはどんな色の、どんな仕立てのリネンのジャケットだっただろうか? そこでふと思い浮かべたようなリネンが今回の3色の中にあったとしたら……それはあなたのための生地である。

① Half-Width Beige of Spence Bryson(売り切れ)

ここに当時ものの……具体的に言えば1970年代〜1980年代のアイリッシュリネン糸がある。この糸はあの、ツチノコよりも珍しいと言われている正真正銘のビンテージ・アイリッシュリネンである。

あの時代のアイリッシュリネンの最大の特徴は、シャンパンベージュともいうべき明るいベージュと、きらきらと輝くきめ細やかな光沢だ。そして日に当たることで飴色に焼けていき、あのなんとも味わい深いゴールデンベージュになっていく。

一方このリネン生地は(断っておくが)70年代のアイリッシュリネンとして手に入れたものではない。おそらくそれよりは後に織られた、スペンス・ブライソンのアイリッシュリネンである。しかしその表情はあまりにも現代のリネンらしからぬものだし……表題のように、Half-Width(半幅)の生地だ。

今時、半幅の生地は珍しい。今ではお目にかかれないような旧式の織機を使っているためにその幅になっているのだが、かと言って私にはこれが何年代の生地であるかも分からない。

わかるのはこのリネンが実にしなやかで重厚感があり、そして古典的な美しさをたたえているということ。そして旧式の織機らしく味わい深い織り模様を浮かべ、70年代〜80年代のアイリッシュリネンにしか見られないような美しいシャンパンベージュ色をしているということである。

まったく、人生とは面白い。過去のことを書くならば、このリネンが一体どの位前に織られたか分からないし、どんな価値のある材料で作られたかを知るよしもない。しかし未来のことを書こうとすると、全てをはっきり断言することが出来る。実に明確なことに、“日に当たることで飴色に焼けていき、あのなんとも味わい深いゴールデンベージュになっていき”、20年後には幻のようなリネンジャケットになっているのである。

② Terra-cotta by Harrisons of Edinburgh

(売り切れ)

ミステリアスな出自を持つスペンス・ブライソンのリネンに比べれば、こちらは単純明快なハリソンズ・オブ・エジンバラのアイリッシュリネンである。それほど古いものではなく、むしろはっきりした血統書付きの生地と言っても良いだろう。

しかしこの色味について言うならば、これは全く平凡な生地どころか、稀に見る美しいリネンだ。日曜日の昼下がりの紳士が着ているリネンジャケットをこの色で思い浮かべた人は少なくないはずだ。

これはフィレンツェの屋根の色のようなテラコッタだ。

これはカラヴァッジョのドラスティックで暴力的な陰影とか、クロード・ロランの古典礼賛な色彩とか、そういうものとは全く性質が異なる。あの性格のねじ曲がったミケランジェロや、レオナルド・ダ・ヴィンチや、天才的な美青年ラファエロの絵画の世界である。

ルネサンスへの憧憬というのは不思議だ。ウフィッツィ美術館の中で数々の名作を眺めているときには「なるほど素晴らしい」と相槌を打つ程度なのに、いざフィレンツェの街中を歩いているとどうしても、そこで切磋琢磨していたルネサンス時代の芸術家たちに思いを馳せてしまう。

この独特の感情について私は、あの街のテラコッタ色のせいだ、と結論を出している。イタリアの街はそれぞれがユニークなポイントを持っているが、フィレンツェに関して言えばそれは明確に「色」であるからだ。

それにしてもこのリネンの美しさは先ほどのスペンス・ブライソンと見比べても全く見劣りしないレベルだ。300グラム台後半のウェイトは重厚感がありながらも硬すぎないし、着込むことによって柔らかくなっていくのが今から楽しみな程である。

この色のスーツにライトブルーストライプのシャツを合わせれば、いかにも6月のフィレンツェで見かけるようなファッショニスタだ。黒や白のカットソーで着こなせば実にダンディな着こなしにもなる。スニーカーを合わせても良いし、革靴できっちり締めても良い。

……つまり、この色のスーツを着るのに特別なアイテムは必要ない。強いて必要なものを言うならポケットチーフサイズの教養、だろうか。

③ Deep Navy of Scabal

(売り切れ)

日曜日の昼下がりに思いを馳せて、ミッドナイト・ネイビーが浮かんだ人はそれほど多くないかもしれない。

しかしこれまでリネンに挑戦したことがない人や、さまざまなシーンで気兼ねなくリネンを着たい人には、ミッドナイト・ネイビーが「浮かぶべき」なのである。なぜならこのスキャバルのネイビー・リネンは、あのホップサック生地のブレザーの代替品であり、ゴールドやシルバーのメタルボタンを付けてダブルブレステッドで仕立てても美しい「夏のクラシック」だからである。

私の頭の中にいつからそのイメージがあったかは分からないが、すでにダブルのリネンジャケットというアイデアは随分昔から在ったようだ。

そしてこのスキャバルのリネンを見た時に、私は確信したものである。いかに常識という言葉が私の片足を引っ張ろうと、もう片方の足がプロフェソーレ・ランバルディの店内に着いている限りこの素晴らしいアイデアを諦めることはない、と。

ダブルブレステッドにチェンジポケット、メタルかこれ見よがしに輝くグレーのマザーオブパールのボタン。これにグレーのフレスコ生地で仕立てたトラウザーを合わせれば、夏場の軽快なジャケパンスタイルとして誰もが認めてくれるだろう。

あるいはブリオーニやチェザレ・アットリーニのように白い裏地に真っ白のパールボタンを合わせると、今度は一気にアマルフィの夕べを思わせるリゾート感が出る。これには否応無しに白いトラウザーかチノパンが必要だ。(リーヴァのクルーザーも着こなしの一つとしてあっても良いが、お金がかかり過ぎるので代わりに上質なデッキシューズでも良いだろう)

The Irish Linen on a Sunday Afternoon

さて、キャンペーンである。

今回もどんなものを、どのサルトリアで仕立てるかはオーダーする人に委ねるとしよう。

紹介した生地のうち、スキャバルのネイビーはジャケットのみ。それ以外はスーツ、ジャケットどちらでも仕立てが可能だ。

このキャンペーンは全て売り切れとなりました。

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