二つの歴史的ビンテージ・ファブリックの再発見

Rediscovery 再発見 という言葉はナポリにとって欠かせない。なぜならこの街は常に、再発見による熱によって突き動かされてきたからだ。

1738年、ナポリ近郊の街エルコラーノでローマ時代の大規模な遺跡が見つかった。それから約10年、今度はポンペイの遺跡が発掘された。遺跡は見事だった。古典様式の装飾から、ありとあらゆる古代の生活、庶民の落書きに至るまでが火山の噴火のおかげで綺麗に保存されていたのである。

この発掘は18世紀の貴族たち、そして知識人や文化人たちを熱狂的にさせた。例えばイギリスの食器ブランドであるウェッジウッドが、他ならぬナポリで見たポンペイ出土品の壺にインスピレーションを得て数々のコレクションを作り上げたのは有名だ。

ポンペイやエルコラーノが起源の古典的で直線的な「新古典主義」は大流行した。ナポリは常にその発信地であり、ヨーロッパ中の貴族のグランドツアーの目的地となったのである。

さて、時代は降って1960年代だ。ナポリでは子供たちが針と糸を持って、ボタン付けを競い合う時代だった。やがてベル・エポックが到来した。イタリアの奇跡とも呼ばれる経済成長の時代がやってきた。

ナポリのキアイア通りではスーツを着た紳士たちが闊歩していた。誰もがスーツを仕立て、高い襟のシャツにアイロンを当て、ヴィットーリオ広場の靴屋で買ったオックスフォード・シューズを磨き上げていた。

Drapers Worsted from 1953

「60年代の生地は最高だ。50年代の生地はもっと素晴らしいが、もう存在しないものの話をしても仕方がない」

ため息混じりに話していたのは、かのアントニオ・パニコだ。彼には常に、確固たる意志があった。それはいわば強すぎるほどのこだわりだった。アントニオは軽くてしなやかな生地を敬遠し、その代わりにビンテージを愛した。力強く、どんな時代にも屈しないようなビンテージのウーステッドだ。

しかし彼が50年代の生地について話したときの表情だけは、私は生涯忘れないだろう。あれは初恋の彼女を思うような表情だった。そして私がある生地屋でこのビンテージ……1953年製のドラッパーズを発見したとき、私はその感情を理解した。

これはLa Storia 歴史そのものだ。そのことを感じずにはいられなかったからだ。

これはまるでピラネージが描くエッチング作品のような美しいピンヘッドだ。ややブラウンがかったグレーのトーンはそれこそ、古代遺跡のような佇まいである。1950年代のナポリを歩く紳士たちのスーツ姿が目に浮かぶ。あの熱狂と郷愁、そして今マエストロとして名を馳せる偉大な職人たちの原点。

50年代の生地は決して柔らかくはない。薄手に感じるほど凝縮されたウーステッドなのに、重さは350g/m以上ある。旧式の織機で途方もない時間をかけて織り上げられたビンテージの中でも、これほどの目付けの良さを感じたことはない。

そしてこの強さにはイタリアの歴史を感じずにいられない。あの戦後の貧しさと目を見張る経済成長の合間に、彼らはどんな困難にも屈しない力強いスーツを求めたのだ。

果たして1953年製のドラッパーズがこの世界に、あとどれだけ現存しているだろうか?

素晴らしいことに、この貴重なビンテージは3メートルある。つまりジャケット単体ではなく、スーツ着分だ。

この美しく稀有な50年代のビンテージをスーツに仕立て、白いシャツとジャガードシルクのネクタイを締めた時、私たちはもう一度ナポリを「再発見」するだろう。そしてその後二度とナポリ仕立ての本質を見失うことはないはずだ。

Zegna Electa from 1970’s

50年代のドラッパーズという最高のビンテージを紹介した後に、一体どんな生地を紹介しようというのか?

客観的に見ればあのドラッパーズを超えるビンテージ生地は存在しないかもしれない。しかし私の個人的な気持ちで言うのであれば、このゼニアが最高のビンテージだ。

なぜならこの生地は、私が数年前にNicola Giordanoの最初の試作ジャケットを仕立てた生地だからだ。そしてあまりにも気に入って毎日着用していたばかりに、逆にブログで紹介することすら忘れていたのだから、面白いものである。

この店が始まる前から今に至るまで、一体何着のジャケットを仕立てたことだろう?

たくさんのお気に入りと、それを上回る失敗がある。美しい生地でありながらサルトリアの選択を誤ったこともあるし、逆に仕立ては良いが生地選びで敗北したことも数え切れないほどだ。

その中で「どのジャケットが一番お気に入りか」と聞かれれば、昼から酒を飲んで考える必要があるだろう。しかし「どの生地が最も良かったか?」と聞かれたらいつでも即答できる。このゼニアのビンテージである。

この生地は決して派手でもなければ、贅を尽くした高番手でもない。しかしひとたびサルトの手にかかれば、一寸の狂いもなく完璧なシルエットを描く。そして一度描かれたシルエットは二度と崩れることがない。まるでミケランジェロが(彼の言葉を借りるなら)大理石の中から救出した彫刻のように永遠に美しい。

そしてしなやかだ。それこそ磨き上げられた石のようなしっとりとした手触りと、腰のある力強さが完璧なバランスだ。この質感は50年代や60年代の生地とは少し違う。あの武骨さが息をひそめ、まるで寄り添うような優しさとエレガントさが現れてくる。

そしてこのsale e pepe(白黒のハウンドトゥース)のトーンと模様が絶妙に美しい。ウールのトラウザーで綺麗に着こなすこともできれば、デニムでドレスダウンもできる。毎日どこへ行くにもつい手に取ってしまう。

この生地はまだ3メートルある。ジャケットにしても良いが、もし着る機会があるならばスーツも良い。黒やグレーのタートルネックに合わせて着れば、実に知性的かつ優雅な着こなしだ。

380g/m近いウーステッドだから春夏に着ることはできないが、秋冬が来るたびにこの生地の素晴らしさを再発見することになる。そして10年後も、15年後も再発見し続けるだろう。この生地は比類なきシルエットを描く大理石なのだから。

The Rediscovery of Two Historic Vintage

① NICOLA GIORDANO Suits × Drapers from 1953

通常価格 473,000円 → 320,000円(税込)

※仮縫い付き。

② NICOLA GIORDANO Suits × Zegna Electa from 1970’s

通常価格 456,500円 → 300,000円(税込)

※仮縫い付き。

その他のサルトリアでの仕立ても特別価格で可能なので是非ご相談ください。東京オフィス、静岡店で現物をご覧いただけますが、一着ずつ限定なので売り切れの際はご容赦くださいませ。

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