驚くべきデッドストックだ。
ロロピアーナが贅を尽くして作る生地が、ナポリではまるきり宝石のように貴重な存在であることはつい先日も紹介したばかりである。
しかしナポリでも日本でも、素晴らしいロロピアーナの生地がデッドストックになることは多くない。なぜならそれらは高価で希少、そして非常に人気だからである。
だがどういうわけか、最も先に消えてしまってもおかしくない生地が眠っていることもある。
それほど長い眠りではない。おそらく2年や、3年の短い眠りだったはずだ。
しかしこのデッドストックと出会ったとき私は全ての理屈を抜きにして、そのため息の出るような美しさの虜になった。
Loro Piana Super 150’s
これがどれほどラグジュアリーなものかを改めて説明する必要はない。私は今回もまた……これらの生地に美しさをいくぶんか言語化することにしよう。
① Navy “Steel” Suits
この奇跡的なスーツの色を一言で表すなら、冷たく磨き上げられたスチールのようなネイビーだ。
そしてこの濡れたような光沢感。ロロピアーナのSuper 150’sといえども、この濡れた乙女の髪のような光沢には驚かざるを得ない。(創世記でイサクとそのラクダに水を汲んでやったあのリベカ、彼女の長い髪はきっとこのような光沢を放っていただろう)
光の抑揚で浮かび上がるうっすらとしたチェックは、グレンチェックともウィンドウペンともつかぬシンプルかつ入んだ模様である。軽薄さはないが、重々しさもない。この絶妙な塩梅のチェック柄を探している人は少なくないだろう。
このスーツは1m離れれば無地に見えるし、堅い場面でなければビジネスシーンでも着ることができる。それでいて一眼でわかるラグジュアリーさと、ほんの僅かな洒脱感を兼ね備えている。
これまでチェック柄のスーツに挑戦したくてもできなかった人にとって、これ以上の答えは無いだろう。
② Gray “Iconic” Suits
このグレースーツは一転して、実にコンサバティブな雰囲気だ。ちょうどブリオーニとか、アットリーニとかが90年代の「最高峰の称号を欲しいがままにしていた時代」に選んでいたようなチェック柄だ。
グレンチェックよりもほんのわずかに抽象化された格子柄。そこにうっすらと走るブラウン系のペーンがモノトーンの上に非常に漠然とした渋さと、控えめな色彩を生み出している。
このコンサバティブなグレーチェックが凡庸でないどころか、むしろアイコニックですらあるのは、やはりロロピアーナの圧倒的な光沢感のおかげだ。
これは例えるなら実に気の利いたオーセンティックバーのような生地である。胸が高鳴るほど一流の雰囲気でありながら、決して出しゃばることはない。しかしその抑制されたエレガンスと気遣いが心地よく、つい酒が進んでしまう。そんな感覚だ。
③ Blue & Gray “Contrario” Jacket
さて次に紹介するのは、今回私が一目惚れしてしまったこのジャケットだ。
グレー地にうっすらと入るブルーのシンプルなチェック。グレンチェックよりもシンプルな線描きは、どことなくモダンな雰囲気を醸し出している。
この配色はいわば Contrario(反転)だ。普通ならばネイビーの地にグレーのラインが入るが、この生地に関してはグレーを基調にしている。おかげで独特のアバンギャルドさがある。
そしてこの質感だ。イタリアに行けばファンシーなジャケット生地ならいくらでも見つかるだろう。グレーのジャケット生地、といえば束になって出てくるはずだ。
しかしこれは別だ。この圧倒的なラグジュアリーさ、そして決してクラシックの範疇を越えない配色で実現された魅惑的なパターン。この組み合わせは滅多に存在しない。
このジャケットはミディアムグレーのトラウザーよりも、黒やチャコール、ダークネイビーと合わせて履きたい。あるいはかなり明るいグレーも良いだろう。
いずれにしても、この色気と艶やかさを活かすには多少のスキルが必要だ。(そのため、他の3つの生地に比べれば着る人を選ぶかもしれない)
だが私はすっかりそのことについて肯定的だ。
なぜならこの生地は……この見たこともないような美しさとアバンギャルドさを湛えたロロピアーナは……この冬のイタリアでの展示会に向けたNicola Giordanoサンプルにぴったりであるという確信があるからだ。
④ Blue “Splendid” Jacket
最後のジャケットは、もはや夢見心地とも言うべき華麗さだ。
やや明るめのメランジがかったブルーネイビーに、うっすらと上品なチェック柄。Splendid(目を見張るような)という言葉がふさわしい、極上の存在感である。
遠くから見ると「打ちひしがれそう」な位にシックでラグジュアリーな光沢感だが、近くで見ると思いのほか表情豊かな生地であることがわかる。
このジャケットに関しても別に多くを語る必要はない。しかし明確な提案はある。それはドレッシーなミディアムグレーのトラウザーで着こなすための、エレガントなジャケットに仕上げることだ。
例えばシングル3つボタン段返りなら、パッチポケットにしつつもシングルステッチで洗練された雰囲気に仕立てる。そこに水牛のボタンを合わせて、美しくクラシックな佇まいにしたい。
あるいはダブルでも良いだろう。ナポリの紳士たちのようにやるなら、パッチポケットのダブルブレステット・ジャケットだ。この場合には少し堂々としたラペルにして、存在感を出す。ボタン位置を低くし、広めのVゾーンに美しいシャツが覗くように仕立てるのが正解だ。
Loro Piana 驚くべきデッドストック
Sartoria Piccirillo Bespoke MTM スーツ
通常価格 565,400円 → 399,000円(税込)※仮縫い、中縫い付き。
Sartoria Piccirillo Bespoke MTM ジャケット
通常価格 488,400円 → 358,000円(税込)※仮縫い、中縫い付き。
NICOLA GIORDANO MTM スーツ
通常価格 489,500円 → 334,000円(税込)※仮縫い付き。
NICOLA GIORDANO MTM ジャケット
通常価格 411,400円 → 287,000円(税込)※仮縫い付き。
各一着ずつのみ。東京オフィス、静岡店で現物をご覧いただけます。
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