Nicola Giorano ニコラ・ジョルダーノについての小咄

「信頼関係」はイタリアにおいて最も重要な要素だ。仕事をする上では特に、それに勝るものは存在しない。

だからナポリのサルトリアに500着まとまった注文を出そうと、信頼がなければ彼らは「儲け話」としてさっさと処理するだけだ。

逆に当店のように1着ずつ注文を出し、顧客の特徴を伝えながら色々なリクエストを出す「面倒なお客」でも、信頼関係があれば優遇してくれるものだ。

それを最も端的に表しているのがこの、Nicola Giordano ニコラ・ジョルダーノというブランドである。

Nicola Giordano ニコラ・ジョルダーノについての小咄

Sartoria Caracciolo サルトリア・カラッチオーロは、当店のような小さな店が注文を出さなくても売れっ子の工房だ。ヨーロッパ中のセレブたちが直接訪れて注文を出すし、それこそアジアでも複数のショップがまとめて注文を出している。

にもかかわらず、オーナーのNicola Giordano ニコラ・ジョルダーノは、その名を冠したこのブランドをプロフェソーレ・ランバルディ独占で展開してくれているのである。

従来のラインとは異なるハンドメイドの製作過程、オーナー直々のカッティング、異なるターリア(シルエット)。なんて贅沢だろう。

(私の思うところでは)この信頼は何年も前に、ジョルダーノ家に混じってスパゲッティを食べながらヴェスヴィオ産のワインを飲んだときに生まれたものだろうと思う。

私は最初に仕立てたサルトリア・カラッチオーロのジャケットを着ていて、あろうことか全部に渡ってダメ出しをしたのである。彼はそれに驚き、むしろ喜び、無限の向上心でジャケットに改良を加えてくれた。

対話はお互いを成長させる。正しい方向性での向上心を持った顧客は、綺麗事や社交辞令ばかり並べる顧客よりもよほど信頼できる。そういうことで、彼は私を信頼してくれたのであった。

そうして生まれたのがこのNicola Giodano ニコラ・ジョルダーノというラインだ。

ナポリ的、そして普遍的なジャケット

さて、今回のジャケットである。こちらはW.Billのデッドストック生地を使用してNicola Giordano ニコラ・ジョルダーノで仕立てたジャケットだ。

言わずもがな美しいが、今回はサルトリア・カラッチオーロの仕立てとの違いを感じて頂きたい。

サルトリア・カラッチオーロのジャケットは、どちらかというと伝統工芸品的な雰囲気だ。ナポリの郷土と独自の文化を全面に感じさせる仕上がりで、ダブルステッチやマニカ・カミーチャの雰囲気はもちろん、ラペルの丸みや多くの部分で往年のナポリを感じさせる。

それに対してNicola Giordano ニコラ・ジョルダーノのジャケットには、普遍的な美しさがある。ナポリ仕立てとして、ではなく仕立て服の美しさとしての頂点を目指したような精巧さと、洗練されたエレガンスだ。

こちらは(注文する人のリクエスト次第だが)シングルステッチをベースに、箇所を絞ってダブルステッチを施した仕様にすることが多い。全体的に洗練された雰囲気でありながら、どことなくナポリらしさを感じる仕様だ。

ポケットの形一つとっても異なる。Nicola Giordano ニコラ・ジョルダーノのラインはより普遍的だ。しかしその仕立ての美しさのおかげで決して没個性な感じがしない。

今回のような表情豊かなデッドストック生地は、ともするとカジュアル感の強いジャケットになりがちだ。しかしこの仕立てならば、ビジネスカジュアルの日やスマートカジュアルがドレスコードの場面でも着られるだろう。

Nicola Giordano ニコラ・ジョルダーノは単なるSartoria Caracciolo サルトリア・カラッチオーロの上位ラインではなく、別の意味を持った仕立て服なのである。