ピュアカシミアの生地を今さらなんやかんや言ったところで、それほど特別感はないかもしれない。
しかしカシミアの世界は奥深く、一言は到底表せない。今回紹介するこのカシミアは一見なんてことはない、ブルーのジャケット生地だ。だが見れば見るほどにこの生地の虜になっていく。
これは私がナポリで世話になっている古びた生地店で文字通り「発掘した」一着だ。
というのも20mのウーステッドのロールとか、15mのフランネルのロールとかそういうものを上から順番に下ろしていき、一番下から3番目にすっかり収まっていたこの…….たった数センチだけ見えていたこの2mのカシミアを抜き出したときには、私はすっかり埃に覆われ、まるでミイラになったミイラ取りのような様子であったからだ。
そしてこの生地を重々しい木の裁断台に広げたとき、努力が報われたような気がしたものだ。
それはもう美しく、力強く、そして非常にParticolare(独特)な生地だったからだ。
この絶妙なバスケット織りのカシミアは、きっとこれまで様々なジャケットをオーダーしてきた着道楽の方でもそうそう見たことないはずだ。そして透明感のあるネイビーブルーのトーンと、抑揚のあるメランジ。カシミアの濡れたような光沢が、見たことのないような特有の表情を生み出している。
これは……随分と遅くなったが……昔のドラッパーズのカシミアだ。それもまだヴィターレ・バルべリス・カノニコとの絆が深すぎなかった頃のドラッパーズである。
そのカシミアの質感は作られたような滑らかさではなく、素朴で純粋な風合いである。新しいカシミアはラグジュアリーだ。一方古いカシミアには味がある。それは90年代のマセラティとか、80年代のオーディオとか、そういうものの中で最も上質な個体が持っているのと同じ味わい深さだ。
そしてそれらと同じように、色や質感、そして織柄において独特の味わいがある昔のカシミアのジャケットというのは、一度逃せばもう出会うことができない。一度自分のジャケットとして仕立てればこれから10年・20年と共に生きていけるにも関わらず、である。(これに関しては出会い、というもの自体の性質とも言えるが)
…ナポリのあの生地屋でこの生地を発掘したとき私は、理由も分からないが漠然と「この生地はこの生地だけで紹介しよう」と思ったのだった。今思えばそれはこのカシミアが持つ特有の世界観、雰囲気に対する敬意だったのかもしれない。
Blue Pure Cashmere by Drapers
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