プロフェソーレ・ランバルディには2つの罪がある。
1つはあまりにもVicunaの生地をストックしすぎて、この「繊維の宝石」と呼ばれるビキューナを高級なカシミアの一種か何かのように扱っていることだ。
もう1つはHolland & Sherryのビンテージをストックしすぎて、この消えゆく幻のビンテージ
がまるで永遠に手に入るものかのように錯覚させていることだ。
どちらの生地も本来ならば一生に一度手に入るか入らないか、というようなあまりにも希少で貴重なものなのである。洋服屋としては、勿体ぶって1年に1着だとかそういうペースで紹介するのが筋なのだ。
だが、どうだろう？
この店の店主は常に刹那的である。エスプレッソはクレマが沈まないうちに一息に飲むものだ。素晴らしいビンテージ生地が手に入るのであれば、手に入るうちに存分に楽しむべきである。
宝物を仕舞い込んで隠した日々は何にもならないが、美しいビンテージ生地でお客様のスーツを仕立てた日々は実に思い出深く、そして記憶に残るからだ。
そうして今日も、本来ガラスのケースに仕舞って展示すべき2つのマスターピースを、あろうことかキャンペーン価格で紹介するのである……。
Holland & Sherry Vintage Super 160’s
これまでにも貴重なホーランド＆シェリーのビンテージは数多く紹介してきたが、さすがにネイビー無地ともなれば「ずっと昔に枯渇した黄金」のようなものであり、私も滅多に手に入れられないものだ。
その点でこのHolland & Sherry Super 160’s Royal Gabardineという生地は、まごうことなきマスターピースだ。
ただでさえ珍しいネイビーソリッドのビンテージ生地だが、あのホーランド＆シェリーの春夏物となれば天体観測で新しい星を見つけるくらいに難しい。
そのうえこれは、おそらくまだ高番手の生地が一般的でなかった頃のSuper 160’sである。濡れたような光沢で、手触りはまるでとろけるように柔らかく、この世のものとは思えないほどにしなやかだ。
だが何よりも特筆すべきはこのブルーネイビーの色味だろう。暗すぎず、明るすぎることもなく、光の元では絶妙に華やかでありながらも一瞬たりともエレガンスを欠かない。
私がどんな魔法を使ってこんなマスターピースを発掘したか？
残念ながらここでそれを記すことはできない。しかしナポリにはまだまだ、日本人が立ち入らぬ場所が…..まるで忘れられた幻のワインセラーのような場所が存在するのである。
だが誓って言うが、その幻のワインセラーに眠っていた「ホーランド＆シェリーの春夏物、しかもネイビーソリッド」という傑作は後にも先にもこの1着だけであった。
Vicuna, Cashmere, Wool and Silk for Kiton（売り切れ）
ストライプともヘリンボーンとも、あるいは細かなチェック柄とも取れるような特徴的な模様を一目見たときは、あまりにも衝撃的だった。実にユニークでビンテージ感の漂うグレー。
これはあのKitonのために、ロロピアーナが織り上げた生地だ。それも最高級のペルー産のビキューナと、カシミアシルクそしてウールを混紡した春夏スーツ生地である。
スモーキーなミディアムグレーに贅沢な獣毛の艶やかな表情。それこそナポリ仕立ての黄金期＝60年代の重厚なビンテージを思わせるトーンなのに、その質感は明らかに最高級のスーツ……それも1着数百万円のプライスタグがつけられるようなサマースーツだ。
滑り落ちるような手触りは明らかにカシミア・ビキューナ混だが、春夏向けに強く織り上げられたウーステッドの腰の強さはむしろ昔のドーメルやスキャバルを思わせる。
……これらの情報から導き出される答えはシンプルだ。これはKitonの中でも既成服ではなく、ごく限られた重要顧客のためのビスポーク生地としてわざわざ織られたものなのだ。
まるで60年代のナポリ仕立てのような優雅さとアバンギャルドさ、そしてドレープの美しさをそのままに、世界で最もラグジュアリーな素材を使って軽やかに織り上げたサマースーツ。一見すると逆説的だが、しかしこれを求める顧客の気持ちは私たちのような着道楽なら誰もが理解できるものだ。
ダブルブレステッドでもシングルでも良い。背抜きにして柔らかく軽く仕立てよう。白いドレスシャツや鹿子のポロシャツの襟を大きく開けて羽織るように着こなす。これが答えだ。
Summer Masterpieces 2着のビンテージ・サマースーツ
Sartoria Ciardi Bespoke スーツ
通常価格 768,900円 → 650,000円（税込）※トランクショー仮縫い。
各一着ずつのみ。東京オフィス、静岡店で現物をご覧いただけます。
お問い合わせはコンタクトフォームから。