【売り切れ】Sartoria Ciardi ダブルブレステッドの誘惑

誘惑はつきない。理想のものを手に入れたと思っても束の間、また次なるものに目がいってしまう。

しかし我々はナポレオンのように、エジプトやロシアを手に入れようとしているわけではない。それどころかフランスを手に入れようとしているわけでもないし、インペラトール(皇帝)の称号を欲しているわけでもない。

ジャケットである。それも一度見ただけで忘れられなくなってしまうような、美しいダブルブレステッドのジャケットである。

素晴らしいシングルの紺ジャケットを手に入れた。それは存分にサルトの腕が発揮された、ビスポーク仕立ての感動的な一着だ。これでもう数年は困らない。

そう思った矢先、ダブルのジャケットが目に止まった。どうしても、一着だけ仕立てたい…!なんとささやかな欲望だろう?

歴史の教科書を読めば世界を手に入れようとした人物が五万と登場する。ダブルジャケットの誘惑に負けたところで、誰もあなたを責めはしないはずだ。

Sartoria Ciardi Double-breasted

というのは、実に扇情的なダブルステッドのジャケットが仕上がってきたからである。

Sartoria Ciardiのビスポーク工程で作られたMTMで、DRAPERSのビンテージ・ウーステッドカシミアを使った一着だ。

サルトリア仕立てのダブルジャケットは美しい。なぜならダブルのジャケットを美しく仕立てられなければ、サルトリアは廃業して然るべきだからである。

しかしその中でもSartoria Ciardiのダブルブレステッドには、堂々たる風格とナポリ屈指の気品、そしてサルトの自信が宿っている。

まず見るべきはラペルだ。ほんの僅かに弧を描くラペルは十分に広く、そして淀むことないラインだ。胸ポケット “タスキーノ”とラペル幅のバランスも完璧である。

それらを彩るステッチワークは細かく、Antica Sartoria(古典的サルトリア)の空気を感じる。子供たちがボタン付けの速さを競い、今のマエストロ達が若く野望に満ちた目でナポリと世界を眺めていた60年代の空気だ。

ダブルブレステッドのネイビージャケットは、イタリアでは貴族的なライフスタイルの象徴だ。なぜならイタリアはどこの洋服店でもそこそこに見栄えするシングルジャケットが売っているが、美しいダブルに関しては絶対に売っていないからだ。

ダブルのジャケットは(特に美しいものは)サルトリアで仕立てなければならない。だからダブルの美しいジャケットを着ていれば、どんなレストランや高級店に行っても相応の扱いをされるし、そのエレガントを賞賛される。

過度にディテールに関して注目しすぎるのは我々の悪い癖だが、ここまでの美しさとなると正直そうせざるを得ない。エジプトを制圧したナポレオンだって、クフ王のピラミッドくらいは隅から隅まで見て回ったはずだ。

ボタンホールの美しさはナポリ随一だ。サルトリア・パニコにも依頼されてここの職人が縫っているのだから、誇張ではない。バルカ・ポケットや襟先の精巧な仕上がりもまたナポリ随一である。これは残念ながら私見だが、到底的外れというわけではないだろう。

雨降らし袖の芸術的な仕上がりについては、もう説明するまでもない。

むしろ注目すべきはなだらかにカーブしながら襟みつに登っていく肩線だ。これは美しさというよりは前肩を生み出すための曲線だが、結果的に美しさへと繋がっている。早く走ろうとしたスポーツカーが美しい流線型になったのと同じである。

改めて生地について見てみよう。天使の羽のように柔らかな手触りについては想像力を働かせて頂くとして、この光沢感とツイル織から浮かび上がる絶妙な陰影には是非とも注目してほしい。

ウーステッドカシミアだ。このようなカシミアを見つけるのは、優れたオペラの歌い手を見つけるのと同じ位に難しい。フレーニの歌声のように柔らかく、そして力強いのだから。

ダブルブレステッドの更なる誘惑

残念ながらこのマスターピースは、すでに納品されたものだ。

しかし悲しむことなかれ。私は今回のナポリ出張の最中、あの格式高いサルトリア・チャルディの工房をくまなく探し回って、ダブルブレステッドに相応しいビンテージ生地をひとつ見つけてきたからである。

今日は皆さんに悪しきダブルブレステッドの誘惑をした罪滅ぼしとして、この生地を紹介して終わるとしよう。

Taylor & Lodge Lumb’s Golden Bale

カシミアの最高峰を決めるのは非常に難しい。しかしウールの最高峰はといえばほぼ意見は一致している。Lumb’s Golden Bale ラムズゴールデンベールである。

特に上質な羊毛のみで作られるこのウーステッドは、限られた供給量ながらビスポーク顧客の中では憧れの生地である。

これはその中でも、ある店の30周年を記念して特別に作られた極上のウーステッドだ。極細の最高級羊毛を緻密に織り上げたこの生地は、極上のカシミアのように艶やかで光沢感に富み、滑らかでありながらも素晴らしいコシの強さを持っている。ダブルのジャケットを仕立てるからには、ラグジュアリーなだけでは駄目だ。力強くなくてはいけない。

それにしても綺麗な生地だ。濡れたようなネイビーと、上品かつ単体ジャケットに映える織目のバランスが秀逸である。Lumb’s Golden Bale ラムズゴールデンベールの中でも、ここまで美しいものは見たことがない。

幸いなことに、この生地は4mあるのである。通常の身長であれば、2着分のオーダーを受けることが可能だ。しかし万が一誰かが「どうしてもこの美しく力強いLumb’s Golden Baleでスーツが欲しい」という気持ちをうっかり起こしてしまったら、それで終わりだ。

ここに魅力的な値段を書いておこう。興味のある方は是非早めにお問い合わせを。

【残り1着分】Sartoria Ciardi ダブルジャケット Lumb’s Golden Bale

1. ビスポーク(トランクショー仮縫い付き)

通常価格 547,800円(税込) → 特別価格 460,000円(税込・仮縫い代込みの総額)

2. 既成サイズ MTO(ビスポーク品質、袖丈調整付き、納期2〜3ヶ月)

通常価格 450,000円(税込) → 特別価格 350,000円(税込)

お問い合わせはコンタクトフォームから。

それでは、ご機嫌よう。