The Summer Excellence 夏のパシュミナ、カシミアそしてシルク

「無人島に一着だけ持っていくなら、どのジャケットを持っていくか」という議題があるとしたら、それは実に滑稽だ。しかしそれよりも随分と現実的でありながら同様に果てしなく、そしてアンニュイな結論へと辿り着きがちな議題がある。

夏のエレガンスだ。

日本の夏とイタリアの夏は違う。私たちはカプリ島やアマルフィの砂浜に寝そべって1日を過ごすわけではない。

真っ白いハーフパンツにヘソまでハダけて着る白いリネンシャツとか、それに合わせるシアサッカーのジャケットなんかが「イタリアの定番だ!」として売られているが、それを買った人は一体何回そのジャケットに手を伸ばすだろうか?(語弊が無いように言っておくと、イタリアでは定番だ。10人中9人がビーチで寝て8月を過ごすのだから)

一方この国で夏に美しいジャケットスタイルが必要なシーンは、特別な日に決まっている。大切な女性とのデートや、親愛なる友人たちとの食事会、リセプション・パーティ。

つまり日本に住む私たちがカプリ島のビーチにだけ似合うジャケットを作っても、それは単なる幻想的な憧れを具現化した一着になりがちだ。

では何を作れば良いのか?

答えは簡単だ。最も優雅で美しく、そして圧倒的にラグジュアリーなサマー・ジャケットだ。夏の数々の思い出の中で、もっともエレガントなその2時間を過ごすためのとっておきのジャケットを作るべきなのである。

今回紹介する二着は決して「お手頃」ではない。だがこれ以上ラグジュアリーなサマー・ジャケット生地は滅多に見つからない。このジャケットを選んで後悔することはない。後悔するのは生地を手放す私だけである。

Dormeuil – Pashmina & Silk

これは私がこれまでに紹介した中で…いや、この世に産まれて以来見てきた中で最もラグジュアリーな夏物生地だ。

パシュミナ & シルク。なんと甘美な響きだろう。

そもそも世界屈指のラグジュアリー生地ブランドであるドーメルは、王族や貴族、そして一部の超富裕層に向けていくつかの「例外的なコレクション」を作っている。

例えばVanquish IIというビキューナ、パシュミナ、キヴィックのバンチだ。これはビキューナに(これから解説する)パシュミナと希少な牛の毛=キヴィックを混ぜて織り上げた生地だが、その値段はスーツ一着500万円は下らない。

その次に来るのが、このPashmina & Silkというバンチだ。これもスーツであればどんなに質素な店でオーダーしても100万円を超える超高級生地である。

東洋の王女と呼ばれるPashmina パシュミナはカシミアの中でも、標高4,000mの山岳地帯に生息する希少なヒマラヤ山羊の毛だ。あまりにも貴重、そして少量しか取られないせいで、その価値はほとんど宝石のようである。世界で最も柔らかく、軽く、そして美しい獣毛の一つとして古くから愛されてきた。

補足しておくとこれはナポレオンがエジプト遠征のお土産としてジョゼフィーヌ皇后に渡した、あのパシュミナである。(インドの薄いスカーフをパシュミナと呼ぶ習慣があるが、それとは全く別物だ)

ドーメルのPashmina & Silkはそんなパシュミナをなんと50%も使用し、そこに世界で最も繊細なパシュミナと同番手のシルクを混紡した生地だ。

だがどういうわけか、その生地感は驚くほどに力強い。270g/mという数値から考えれば随分薄く感じられるが、その分凝縮感がある。すっかり意識が遠のいてしまうほどに柔らかい質感だが、あくまで春夏らしいさらりとした質感だ。

そしてこれこそが私がこの生地を愛する理由である。その出立ちとは裏腹に控えめで洗練された佇まいは、まるでそつなく仕事をこなす王妃のようだ。天使の羽のように軽く、そしてカノーヴァの彫刻のように立体的で優美なジャケットに仕上がることだろう。

残念ながらパシュミナという素材がこのブログに登場することはこれから二度とない。あまりにも貴重で、儚く、そして高価だからだ。

だがもしもジャケットの形でこれが手元に来たなら、その人生はどれほど豊かだろう。

夏のエレガンスという永遠の論題に、ここでひとつの終止符が打たれる。

Holland & Sherry  – Vintage Cashmere & Silk

パシュミナを紹介した後では少し地味に思われるかもしれないが、私にとってこのカシミア・シルクは全く別のジャンルに位置している。

なぜなら”彼”は夏の夜のエレガンスとして頂点にいるが、もしそれが夏の昼の美しい青空のもとで着られる(または携えられる)ジャケットならば、明らかにこのジャケットこそがふさわしいからである。

このカシミア&シルクは正真正銘のビンテージである。Holland & Sherryが最も美しい生地だけを作っていた時代の文化的遺産だ。

最近でもカシミア&シルクのジャケット生地は人気で、エルメネジルド・ゼニアやピアチェンツァでバンチ生地として展開されている。もちろん当店で扱おうと考えたことも一度や二度では無い。

しかしそれらの生地の多くはあまりにも織りが甘くて薄く、そして手触りや光沢でビンテージ生地に今一歩及ばない。このHolland & Sherryのビンテージを一度でも体感した人は、どうしても比較してしまうはずだ。

カシミアのとろけるような柔らかさ、シルクの散りばめた輝石のような光沢。そして強く握ってもシワにならない素晴らしい目付けの良さ、ウーステッドの腰。にも関わらず生地はRaffinato(洗練された)とも言うべき薄さだ。

この美しい色合いは他に例を見ない。

ライトブルーは天国の色だ。

それはすなわち夏の陽光に最も似合う色、ということである。それこそカプリのビーチで着ても似合うが、逆に都会で着てもクールである。

ネイビーのシャツやカットソーに合わせて、それがライトブルーであることを感じさせず自然に着てみよう。(ネイビーのジャケットに、ライトブルーのシャツを合わせるのと本質的には全く変わらないのだから)

秋口になったらダークネイビーのタートルネックに合わせるのもいい。全ての着こなしにおいて、この抜群のサマー・エレガンスが装いを彩ってくれる。

Holland & Sherryのビンテージは希少だ。それは日に日に発掘されては裁断されているし、良い色のものや質感が素晴らしいものは尚更だ。5年後にはきっと幻の存在になっているだろうが、もっと言えば1年後には既に良いものがなくなっているだろう。

The Summer Excellence

① Sartoria Piccirillo Jacket × Dormeuil – Pashmina & Silk

通常価格 961,400円 → 488,000円(税込)売り切れ

※仮縫い、中縫い付き。必要に応じて3回目の中縫いも可能。
※マエストロ・ジャンニのキャンペーンにする理由は簡単だ。彼の仕立ては何年経っても決して型崩れすることなく、常に美しいままだから

② Sartoria Piccirillo Jacket × Holland & Sherry – Vintage CashSilk

通常価格 565,400円 → 404,000円(税込)売り切れ

※仮縫い、中縫い付き。

もちろん一着ずつ限定である。

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