4 Finest Vintage Mohair 4つの最高峰ヴィンテージ・モヘア

雨が降っている。

しっとりとさざなみのような音を立てながら、森全体が風に揺られている。木のテラスで雨粒が弾けるリズムが聞こえる。マーガレットの花がそこらじゅうに咲いて、美しい花びらが水玉を弾いている…。

なんて気まぐれな散文を書いていられるのは、私が山にいるからだ。自然の中では雨も風情があるし、コーヒーを飲みながら家の中から眺めるなら、むしろ格別な時間だ。

しかし街中での雨は過酷だ。革靴はびっしょりと濡れるし、傘をさしてもスーツは雨水ですっかり見窄らしくなってしまう。家に帰ると今度は自分の涙で枕が濡れるというわけである。

だが一部の人々は、この季節にあるものが非常に心強い味方になることを知っている。

モヘアだ。ヴィンテージのモヘアは多少の雨ではへこたれない。湿気が多くても美しく立体的なシルエットをキープしてくれるし、素材自体がいわゆる強撚糸に近い性質を持つモヘアは、着ていてベタベタせずに快適だ。そのうえ乾きやすく、シワも残りにくい。つまり日本の梅雨にこそ、モヘアは素晴らしい選択なのである。

ではどうして皆がモヘアのスーツを着ていないか?それは良質で手触りのしなやかなモヘアというものが、非常に希少だからだ。モヘアに滑らかさを求めれば必然的にヴィンテージになるし、ヴィンテージで美しい色柄を見つけるのは難しい。

そう、当店のキャンペーンを除いては…

Four Finest Vintage Mohair Fabrics

私は非常に強く反省している。なぜならこれまでにも素晴らしいモヘアをたくさんお客様に紹介してきた。その度に私は「こんなに艶やかで、柔らかく、しなやかで上質なモヘアは二度と手に入りません。生年月日の同じ大親友を二度見つけようと考えるようなものです!」と言ってそれを薦めてきたからである。

果たして、ここにまた美しいモヘアを紹介することになる。しかも二度と手に入るはずのない上質なモヘアを。

1. Grigio Misto

あまりにも特別なモヘアから始めるとしよう。これは恐らく英国老舗ベックサイドミルズのモヘアだが、よくあるのモヘア生地とは随分と趣が異なる。

表面は光沢の美しいダークグレーだが、裏面はシルバーに近いライトグレー。ソラーロのように、裏面の糸が表に浮かび上がるような仕上げだ。

生地感自体もモヘア生地と言えば杢になっているものが多いが、これはどちらかというとラグジュアリーデニムのような綾織だ。糸の表情がカジュアルでありながら、実にエレガントな雰囲気を醸している。ちょうどブリオーニや、ロロピアーナのコレクションで使われる生地のような風合いである。

なんと美しいグレーだろう。生地自体も柔らかく腰があり、ジャケットに仕上がったときの美しいシルエットがもはや目に見えるようだ。

しかしこの生地で最も面白いのはやはり、コントラストだ。我々はビスポークの話をしているのである。この美しい両面の色合いの違いを生かすために、背抜きのジャケットにしよう。脱いだ時にジャケットの内側に見えるシルバーグレーと表面のダークグレーのコントラストが、プラチナやホワイトゴールドの宝飾時計のように気品ある雰囲気になるはずだ。

Sartoria Piccirillo ジャケット 通常価格 405,900円 → 特別価格 330,000円(税・生地込み)

Nicola Giordano ジャケット 通常価格 359,370円 → 特別価格 280,000円(税・生地込み)

※スーツも可能。

2. Mohair & Linen

この生地を紹介するのは実に久しぶりだ。(もしかしたらまだ記憶にある人もいるかもしれないが、だとしたら相当に古参の方である)

これも老舗ベックサイドミルズのモヘアだが…この生地を見つけたときにどれほど私が歓喜したものか、皆様にお見せしたいくらいだ。なにしろリネン混なのである。数あるモヘアのヴィンテージを見てきたが、リネンが混紡された思いきりの良い生地はこれ以外見たことがない。

ということでこの生地は見つけた瞬間全て買い占めたのだが、その殆どがなぜかイタリアで売れてしまった。というのもジャンニのところで仕立て中の私のジャケットを見たナポリ人たちが、こぞってこの生地を売ってくれと頼んできたのである。結局、残っているのは1着分と少しだ。

美しいモヘアの質感とウールのしなやかさ、そこに少しだけ混紡されたリネンによって生まれたこの風合い。この杢目は実に希少だ。それにこの生地の古さを考えたら、混紡されているリネンは『あの』本物のアイリッシュリネンだ。出なければこれほどしなやか、かつ強く仕上がらないだろう。

通常ヴィンテージモヘアは上質になればなるほど、杢目がきめ細やかになっていく。その分スーツにした時の仕上がりは美しいのだが、私のようなジャケット派には少し物足りない。この生地はリネンの質感が入って、ほんの僅かにカジュアルな雰囲気になっている。この絶妙な風合いはジャケットにしたときに、あまりにも魅惑的だ。

Sartoria Piccirillo ジャケット 通常価格 405,900円 → 特別価格 330,000円(税・生地込み)

Nicola Giordano ジャケット 通常価格 359,370円 → 特別価格 280,000円(税・生地込み)

※スーツも可能。

3. Blu Meraviglioso

この生地こそ、私がもっとも反省すべきものである。なぜなら美しいネイビーのモヘアは全て売り切れた、とわたしは常に口にしていたからだ。しかしどうだろう、この生地は……過去最高のうちの一つだ。

まずはこの色だ。なんと素晴らしいブルーネイビーだろう。暗すぎず、明るすぎず且つ気品のある青みが実にエレガントだ。貴族的なネイビーとでも言うべきだろうか。

ご覧の通りこれは、テイラー&ロッジのモヘアである。それだけでも相当に価値のあるものだが、この生地については圧倒的な質感の良さだ。

杢目の揃い方と光沢はまるで美女の黒髪を櫛で丁寧にとかしたような艶やかさだし、その質感はもっちりとしてしなやか。春物としてはむしろ、ウールよりも滑らかに感じられるほどだ。以前ビキューナカシミア混のモヘアを紹介したことがあるが、それに匹敵する柔らかさである。

こんなにも素晴らしいモヘアでネイビーソリッドのスーツを仕立てられた人は幸運だ。太陽光の下では宝石のように輝き、夜は優雅に沈み、着ている間は涼しく、常に凛々しいシルエットでいられる。書いているうちに「自分で仕立てよう」という悪魔の囁きが聞こえてくる。しかしこんなにエレガントなネイビーは、山にこもって記事を書いている私にはもったいないのだ……。

Sartoria Piccirillo スーツ 通常価格 466,400円 → 特別価格 380,000円(税・生地込み)

Nicola Giordano スーツ 通常価格 422,235円 → 特別価格 320,000円(税・生地込み)

4. Scabal Montego Bay

最後にもう一つだけ、あのネイビーのモヘアにも引けを取らない素晴らしいヴィンテージを紹介しておこう。スキャバルのモンテゴベイ。世界中の着道楽が血眼になって探している最高峰のモヘアである。

スキャバルのモンテゴベイやドーメルのスーパーブリオについては、もはやクラシックフェラーリのような存在で誰もが欲しがっている。しかし私の深淵なる思想によれば、半分はまやかしである。なぜならばモンテゴベイ、スーパーブリオには時期によって様々なクオリティが存在するからだ。

それにあろうことか、ある百貨店がサルトリアの既製服に「復刻版」の真新しいスーパーブリオを採用し、それを店頭のスタッフが「あのスーパーブリオです」と説明して売ったこともある。(お客様から聞いた話である。)ウェルダンで焼いたアメリカビーフのステーキのように硬くて光沢のない復刻版のブリオを、当店でおすすめしたことはない。

ということで、これはモヘアが最高のクオリティだった頃に作られた素晴らしいモンテゴベイである。

品質の良いヴィンテージモヘアかどうかは、光に当てればすぐにわかる。なぜならヴィンテージの素晴らしいモヘアは、太陽光で宝石のように輝くからである。

しかしその中でも最上級かどうかは、手に取らないとわからない。そのしなやかさや滑らかさ、そしてモヘア独特のシャリ感の質。良いと言われるモヘアを何十着分も集めて比べたことがある人にしか、この違いは分かりにくいかもしれない。

もちろん私はモヘアを買いすぎて一度破産しそうになりかけたときに、この違いについて学んだものだ。その経験からすると……これは最高品質である。

Sartoria Piccirillo スーツ 通常価格 466,400円 → 特別価格 370,000円(税・生地込み)

Nicola Giordano スーツ 通常価格 422,235円 → 特別価格 310,000円(税・生地込み)

 

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それではご機嫌よう!