どんなジャンルでも「待っているもの」というのは、確実に存在するものである。
車でも時計でも、宝石でも小説でもなんでもそうである。売り手がどのように工夫して売ろうとしても、一向に売れる気配がない。しかしある時ふと買い手が……しかも「それ」が実によく似合う買い手が現れて買っていくのだ。
そして売り場では気難しく顔をしかめていたその商品が、その人の手に渡った瞬間にまるで別物になったように輝き出し、もはや「その人にはこれしかない」と思わせるような力を俄かに帯び始めるのである。
さて、同じことが生地にも言えるのだ。
今回は“Eleganza Sumisura”すなわち「仕立てるべき人」を待っている2着の生地である。
【売り切れ】① Loro Piana Vintage Cashmere & Silk
この美しいグリーンのジャケット生地は、まさにそのような1着である。
ただのジャケット生地ではない。これはロロピアーナのビンテージカシミアシルクなのである。その美しさは本物のエメラルドをも超越している。
シルクの贅沢な光沢と、カシミアの滑らかな手触り。特にこの手触りはまるでグアナコか、Super 240’s ウールを触っているようだ。カシミアというものが一般的になってから久しいが、世の中の99%以上の人が一生触れることなく過ごすであろう頂点のカシミアである。
生地感としては春秋物(合物)だ。涼しい春先に白や明るいサックスのコットンリネンシャツで着こなしたら、どれほど美しいだろう。あるいは秋口にダークブラウン系のカラーと組み合わせて着ても良い。とてもエレガントだ。
(個人的に仕立てるなら、生地よりもやや明るめの糸でボタンホールとステッチを縫ってもらうだろう。その方がずっと美しいから)
万人のための生地ではない。ただの派手好きなファッションフリークには似合わない。この美しい生地のジャケットを着こなすならば美しいライフスタイルが必要だ。優雅な着こなしと、余裕のある振る舞いも必要である。
私はあえてこのジャケットを、生地の値段からしたら信じられないようなスペシャルプライスに設定しようと思う。
このジャケット生地は「仕立てるべき人」を待っているが、その人にしかるべき勇気を与えるためである……。
Sartoria Caracciolo MTO※ 生地込み通常価格 270,400円 → 特別価格 135,000円
※既成服サイズから選んでお仕立て。詳細サイズはお問い合わせください。MTMの場合 +25%。
【売り切れ】② Brown Pure Escorial Wool
これは(私の勘違いでなければ)数年前に私が注文したエスコリアルウールである。巡り巡ってこの仕立て屋に譲ることになったのだが、それがまさかこのような形で帰ってくるとは思いもよらなかったことである。
そしてもっと思いもよらなかったことは、このエスコリアルウールがこれほどにも美しく、艶やかな色合いだったことだ。私は人に譲らず、その場で自分のスーツを仕立てるべきだったのである。(個人的にはダブルのスーツを。)
希少なエスコリアルウールの中でも、この色は非常に珍しい。それはこの色が通常のあの分厚いバンチブックではなく、限定の板バンチでラインナップされたものだからだ。
美しいブラウン。イタリアの街並みに溶け込みそうな自然な色合いに、エスコリアルの奥ゆかしい光沢感。これに合わせるのは間違いなくライトブルーの煌びやかなシャツだ。ネクタイはしなくても良い。ナポリのキアイア通りを歩く紳士の着こなしだ。
この色合いならば、ジャケット単体で着こなすことも難しくない。ジャケットのフラップをポケット内に仕舞って着れば、カジュアルな雰囲気にもなる。明るいブルーやインディゴのデニムとの相性は言うまでもないし、グレー系でまとめた着こなしに合わせるのも洒落ている。
生地のウェイトも300g/m程度すなわちオールシーズン物で非常に使いやすい。ネイビーやグレーのエスコリアルは見たことがあっても、この色のウーステッドを店頭で見たことのある人は非常に少ないはずだ。
そして何よりも仕入れ値がべらぼうに高いエスコリアルが、こんなにも魅惑的なキャンペーン価格になることは、当店以外にはないだろう。
生地代3m 通常価格 99,000円(税込) → 20,000円(税込)
(=価格表の値段 + 20,000円でお仕立て可能)
お問い合わせはコンタクトフォームから。
…さて、前回のビキューナ・コレクションは瞬く間に売り切れてしまったが、今回の生地たちは人を選ぶから、流石に即完売とはいかないはずだ。
この生地たちが残っている限り私は次のキャンペーンをサボり、無限に正月を延長することができるのである。なんと素晴らしいことだろうか…!