Another Chance 再び訪れるチャンスの物語 – Sartoria Ciardi

 

※6月27日 追記

チャンスというものは実に興味深い。なぜならこの再び訪れた千載一遇の生地に、またもう一つの可能性が現れたからである。というのは、私が以前荷物置き場として借りていたニコラ・ジョルダーノのサルトリアの一角からこのグリーンのリネンが追加で1.5m発見されたのだ。つまりこの生地で風情あるリネンスーツが製作できるということである。勿論、美しすぎる6ボタン下掛けのダブルでも構わない。

 

チャンスというのは実に不確かなものだ。

曖昧な形で現れては、まるで頬をかすめるそよ風のように通り過ぎる。ふと気づいて後ろを振り返ったときには、そこに姿はない。まるで最初からなかったかのように、空虚さだけが佇んでいる。

このことを初めて知ったのは、まだ子供の頃だ。それから私は……この文章を読んでいる多くの人々と同じように、幾千ものチャンスがすり抜けるのを感じ、それらを逃し、それらのうちのほんの一握りだけを掴んできた。

だがついに30歳になるこの年、私のもとに驚くべき事実が現れた。それは「チャンスの訪れは決して、一回だけとは限らない」ということだった。

そしてその事実を教えてくれたのはまさにこの二つの生地だった。魔性の色を持つグリーンのリネン、そしてロロピアーナの華麗なるビキューナ。

そう、「もう二度と出会えない」はずのものが再び……まるで扉をノックするかのように突然現れることがあるのだ。

A Certain Green あるグリーンの物語

私がこのグリーンと出会ったのは、もう5年も前のことだ。

この深くも鮮やかなグリーンのリネンには、光の加減で浮かび上がるネイビーの糸が折り込まれている。その独特の色味は、まるで魔性の如く人々を惹きつけるものだった。

グリーンとネイビーの芸術的で唯一無二な掛け合いとは裏腹に、誰にでも似合い、ネイビージャケットのように着られるトーン。こんなグリーンのジャケットが今までに存在しただろうか?

あるときサルトリア・チャルディのアトリエでこの生地と出会い、私は一瞬も迷うことなく自分のジャケットとして仕立てた。私が春夏のトランクショーのときにいつも着ている、あのジャケットである。

私はサルトリア・チャルディのジャケットが仕立て上がるやいなや、瞬く間にこのリネンを愛するようになった。その愛し方といえば、少々度が過ぎたほどであった。

というのも、このジャケットには一つの秘密があったからだ。

それはこの美しいブルーの裏地だった。この生地の美しい性質を最も好く生かすために、サルトリア・チャルディのエンツォが、この裏地を選んだのだった。さらに彼はこのサルトリアに伝わる特有の背抜き仕様でこのジャケットを仕立てることを思いついた。

果たしてその着想は実にファンタスティックな結果をもたらした。

決して非常にスタンダードな色使いではない。しかしグリーンに浮かび上がるネイビーのおかげで、このブルーの裏地がむしろ好ましく見える。

さて、話を戻そう。ここにそのグリーンのリネンがある。

私は5年前に自分ジャケットをブログで紹介した後、血眼になってこの美しいグリーンのリネンを探し回った。あまりにも多くの問合せをいただき、自分がこのジャケットを着ることに罪悪感すら覚えるほどだった。

それから1年位経った時、私はナポリのある生地屋でこのリネンのデッドストックを見つけた。そこにはなんとまだ30m以上在庫があった。高まる興奮を抑えつつ12mを買って日本に帰ると、それをトランクショーやメールでお客様に案内した。

もちろんあっという間に完売だった。それから私は大急ぎで生地屋に電話した。生地はもう3cmすら残っていなかった。

その後の4年間については皆の知る通りである。私は幾度となくこのジャケットを着用し、問い合わせをいただき、その度に在庫がないことをお詫びした。

しかし今年4月のナポリ出張で奇跡が起きた。それは私と直接的には取引のないサルトリアでのことで、私は世間話をしながら生地棚を眺めていた。すると、ある印象深いグリーンのリネンに目が止まった。私は二度とチャンスを逃すつもりはなかった。そのサルトリアの主に頼みこんで、私はこのリネンを買い取った。

たった一着分である。しかしここには一着分がある。

「0」と「1」には大きな隔たりがある。遠い昔にチャンスを逃してしまった人にとって、この「1」がどれほど大きな意味を持つか説明は不要だろう。

Unforgettable Blue 忘れられないネイビーの物語

このネイビーの生地についてのストーリーは実にシンプルだ。

これは私が2年ほど前に逃したチャンスの物語であり、そしてもう一度「逃そうとしている」チャンスの物語である。

2年ほど前、私はサルトリア・チャルディの工房であるネイビー生地を見つけた。

それはあのLoro Pianaの最高級バンチとして名高い“Zenit”のビキューナ・カシミアだった。一眼で虜になった。ビキューナの質感、カシミアの光沢、そして340g/m近くしっかりと目が詰まり重厚感のある極上のウーステッド。全てが最高だったからだ。

しかしこれは残念ながら、当店のようなしながない洋服屋のために織られる生地でもなければ、足繁くナポリのサルトリアに通う軌道楽の生地でもなかった。これは明確に……それも実に明確に……一国の大統領や王族、貴族、あるいはRIVAの100ftのクルーザーを持っているような実業家に向けて織られる生地なのだ。

そこで私はこの生地を諦めた。「あまりにも特別な生地だからこそ、自分で仕立てるのではなく店で売りに出した方が店の格が上がるだろう」という至極真っ当な判断だった。

私の判断は正しかったようだ。次の日にドイツの王子がチャルディのアトリエを訪れ、すでに当店でオーダーが入ったその生地を見て、嘆き悲しんだという話を聞いたからだ。

しかしあれから2年、私があの生地を忘れた日はない……。

今年4月のナポリ出張のときだった。かねてより仲良くしている生地商の友人とエスプレッソを飲んでいた。私はその日の夕方にはローマに行く予定があり、彼のオフィスを訪れて時間潰しにたわいものない話をしていた。

しばらくして、私は彼のコレクションからいくつかの生地を仕入れた。そのときだった。彼は裏の方から一着分の生地を手に持ってきたのである。

それはあのときサルトリア・チャルディの工房で見たZenitの色違いだった。それも心躍るような、優雅で気品高いネイビーだ。

私は彼と固く握手をして帰国した。それからその生地をいつ、どのような仕様で自分のジャケットにしようかまじまじと考えた。何しろ2年ぶりに巡ってきた千載一遇のチャンスである。

しかし私はまた、このチャンスを逃そうとしている。理由はシンプルだ。2023年11月のサルトリア・チャルディ トランクショーが確定したからだ。そしてこの生地で仕立てた仮縫い状態のジャケットを、その目玉にしたいという思いに抗うことができなくなったからである……。

《Another Chance》for Sartoria Ciardi Bespoke Trunkshow

①Sartoria Ciardi Bespoke × GREEN LINEN JACKET
通常価格 569,800円 → 特別価格 488,000円(税込)

②Sartoria Ciardi Bespoke × Loro Piana Zenit Vicuna, Cashmere, Wool & Silk
通常価格 745,800円 売り切れ

【半金可能】オーダー時半金、仮縫い時半金でご注文いただけます。
※新規の方の場合には渋谷のオフィス、もしくは静岡での初回採寸が必要です。
※次回のトランクショーにご参加いただける方限定となります。

お問い合わせはコンタクトフォームから。

 

Sartoria Ciardi Bespoke Trunkshow 2023年11月6日(月)〜12日(日)

11/6 – 7 東京オフィス(渋谷)

11/8 – 9 プロフェソーレ・ランバルディ静岡

11/10 – 12 東京オフィス(渋谷)

詳細は次回ブログにてご案内いたします。