Sartoria Piccirillo クラシック洋服の最高峰、総手縫いのポロコート(ご納品)

こんにちは、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の大橋です。

どの世界にも最高峰というものは存在するものです。

性能や価格においての最高峰が存在するのは当然なのですが、例えばオーディオ、いや音楽そのものの最高峰などはあまりにも感覚的な世界で、それを愛してやまない人にしか到底理解不能です。

同様に理解が難しいのが、クラシックな洋服においての最高峰。

服はどのように仕立てられたか、どんな生地を使っているか、また見方を変えればどんなシチュエーションでどんな着方をしているか……など実に様々な要素でその最高峰が決められる世界です。

しかしナポリの仕立てという実に狭いくくりの中において、現地の職人たちが口を揃えて「最高峰の洋服だ」というのが、やはりこのポロコートなのです。

アウトドア、スポーツに起源を持つこのポロコートがこれほどまでに重要視されるのはなぜか?

それは、ナポリのサルトリアが一般的に手がける洋服の中でも、ポロコートが圧倒的に手間が掛かり、仕立てるのに技術が必要な洋服だからです。

サルトリア・ピッチリーロのジャンニが仕立てるポロコートは、定番のスタイルをとりながらも全てのパーツにおいて非常に高いレベルで作り上げるもの。奇をてらったりせず、非常に堂々とした雰囲気です。

まずポロコートらしさを感じる部分といえば、このバックベルトとプリーツでしょう。最高級のカシミアを贅沢に使用し、ナポレオン3世の寝室のカーテンのように(?)折りたたんでいくのがポロコートの特徴です。

折りたたんだプリーツの中にはボタンホールが施され、ボタンで止め外しができるようになっています。通常のコートに比べて数倍のステッチと、多数の手縫い穴かがりをする必要があり、大変時間が掛かります。

また、バックベルトの仕上げはサルトリアによって異なりますが、サルトリア・ピッチリーロの場合にはしっかりとダブルステッチを施して全体との雰囲気を合わせています。

「サルト(職人)が一生に使う糸の長さは月まで到達すると言われてるんだよ!」なんてジャンニ・ピッチリーロはよく冗談を言っていますが、きっとこのベルトとプリーツに使った糸だけでも二階の屋根裏まで到達したことでしょう。

次に見るべき点は、フラップ付きのパッチポケットと、ターンナップカフです。特にカフ周りはボタンが付いていたり、付いていなかったりとサルトリアによって差があります。

サルトリア・ピッチリーロの場合には丸みを帯びたカフに、45度のボタンホールでボタン留めです。実に美しく、芸術的な雰囲気を醸し出しています。

またパッチポケットとフラップは、このように綺麗な平面や直角が出ていることが美しさの条件です。それにしても一体どれほどの手間が掛かっていることでしょう!

そして、これらの丁寧なディテールよりも更に大事なのがこの襟の形です。

ポロコートは襟を立てて着ることも多く、この部分のシルエットが非常に重要です。

下襟の方が上襟よりも大きなこのモデルはアルスターカラーと呼ばれ、寒々しいアイルランドの田舎にその名前の起源を持っております。

(ちなみに20歳にもならない頃、この辺りを10キロ以上に渡って歩いたことがあります。羊と荒れた道路、それにいくつかの民家しかない。通りがかった人に道を聞くと《1.5km先の右手だよ》という。30分ほど歩いてまた通りがかりの人に道を聞くと、また《1.5km先だよ》と言われる。進んでも進んでも1.5km先ということは目的地は幻想か何かで、アイルランドは恐ろしい場所なのではないかというアイデアが浮かび始める。最後にはドアハンドルの取れたオンボロのトヨタ車に乗せてもらって、目的地に到達したのです。実にどうでも良い話ですな)

とにもかくにも、この襟の美しさなくしてポロコートは語ることが出来ません。

ついでにサルトリア・ピッチリーロの素晴らしさをもう二つ、三つ付け足しておきましょう。

ボリュームのある胸周りと、そこからドラスティックに絞り込んだウエストラインはコートでも健在。特に柔らかなカシミアでもこのドレープ感を生み出せるのは、しっかりとハリのある芯材を柔らかな手縫いで縫い付けるという彼の技法あってこそ。

そしてマニカ・カミーチャについても非常にクラシカルで美しい。

もう一度先ほどの写真を。

伝統的な雨降らし袖がどうあるべきかを示唆するような、美しいギャザーです。自然で、アームホールから滑り落ちる清流のような雰囲気でしょう。

またアームホールの形も実に芸術的です。前肩を包むような立体になっており、結果としてホールは円形ではなく、前にせり出し上部が削られたような形状になっています。肩と背中全体にコートが乗るので、重みを感じません。

どうして3月にポロコートをご紹介したかって?

せっかく最高峰のコートを作るのであれば、仮縫いだけでなく中縫いも行い、最高の一着を今年の冬に間に合わせようじゃありませんか。

そう考えると今がポロコートにとって最良のタイミングなのです……!

(素晴らしいカシミアを大量にストックしていることも、ここにこっそり書き足しておきましょう)

それでは御機嫌よう。