常に前を見て生き、何歳になっても人生を謳歌しているイタリア紳士達。彼らが唯一後ろを向くのは、モヘア生地を探すときだけである。 – しがない洋服屋の店主
モヘアはビンテージがよろしい。特に柔らかさと光沢感という点については、やはりビンテージ生地に勝る現行モヘアは存在しません。
実はこちら、お客様にお持ち頂いたビンテージの英国製モヘアウールです。
細かく散りばめたダイヤのような光沢と、しなやかな手触り。美しく奥行きのある深いネイビーブルー。常に上品さがありながらも、光のあたり加減で鮮やかで芸術的な青へと姿を変えます。
これは危うく洋服屋が「なぜこの生地は私のもとに先ず姿を現さなかったのか。世の中はなぜこうも無常なのか」と涙を流してしまいそうな品。(もちろん仮にこの生地が先に私のところに来ていたとしても、店であるからには結果は同じ。一番美しい生地は常にお客様のためにあるのです)
仕立てはSartoria Caracciolo サルトリア・カラッチオーロ。
こちらはMTMながら、お客様のご要望でゴージラインのデザインを少し変更しています。やや大きめの上襟に、カーブを描く下襟。1960年代を感じさせる趣があります。それはそれは大昔、当店で限定モデルとして展開したものなので、見覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。
モヘア混ウールはハリが強いため、マニカ・マッピーナ(雨降らし袖)でふんわりとした独特の雰囲気を得ることができます。
通常のマニカ・マッピーナが滴り落ちる雫であれば、こちらは美しい海岸の波打ち際とでも言いましょう。実に優雅な雰囲気です。
ディテールひとつひとつを見ても、サルトリア・カラッチオーロの仕立ては実に完成度が高い。
当店では手の届きやすいブランドとして展開しておりますが、クオリティに関しては全く他に引けを取りません。
なぜコストパフォーマンスが良いかって?現地ではナポリ、ローマ、そしてヨーロッパの富裕層が「ダース単位」で注文するサルトリアだからです。旧市街の古典的な仕立て屋に比べると、圧倒的に生産体制が整っているのです。
トラウザーはクラシックなボタンフライに、遊び心のあるサイドアジャスター。美しいブルーにアンティーク調の金具が実によく似合います。
ボタンホールの美しさは、トラウザー専業ブランドに比べても勝るほど。サルトリア・カラッチオーロではジャケットと同じ職人が穴かがりをするため、クオリティが高いのです。
手縫いのステッチはもちろんのこと、裏地や細かな部分にても手縫いを多く用いたトラウザーです。
春夏にスーツを着る機会は少なくなっているかもしれません。スーツを着るという楽しみをやめてしまうこと、諦めてしまうことは簡単です。
しかし圧倒的に美しいスーツがあったら、むしろ着る機会を作りたくなることでしょう。そしてその渇望が、人生をより豊かなものにするのです。
「美しいから」という理由で決して普段着のスーツをやめないイタリアの紳士達を、今こそ見習おうではありませんか…!