こんにちは、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の大橋です。
今回は名古屋出張でお納めしたお客様のサルトリア・ピッチリーロのスーツやジャケットをご紹介しましょう。
まずはこのアラシャンカシミアのジャケット。アラシャンカシミアはご存じの通り、中国のアラシャン地区でのみ取られるカシミアの中でも最高級の素材。あまりの流通量の少なさ、そしてその極上の手触りからカシミアの頂点とされています。
そんなカシミアをウーステッド、しかもホップサックに織り上げた贅沢な生地。私が手に入れたのは1着分だけ……これほど美しいジャケットに仕上がったことで、名残惜しさよりも嬉しさが勝ったのが幸いです。
それにしても素晴らしい仕立てです。胸周りのフィット感、立体感、そしてアラシャンカシミアの生地感をしっかりと生かした上品なシングルステッチの仕上げ。控えめながら優雅にギャザーの寄った雨降らし袖は、サルトリア・ピッチリーロの特徴です。
ジャンニ・ピッチリーロの仕立てるジャケットは、どの角度から見ても起伏と、ドラマチックな造形美に溢れています。例えば丸みを帯びた肩のラインからボリューム感のある袖付け、そして袖先へスムーズにシェイプしていく様子は、まるで空力性能を高めたスポーツカーのような美しさ。
ゆったりとしたエレガンスとはまた異なる、鍛えられた肉体を思わせるシルエットです。
さて、次はこのジャケットを紹介しましょう。
このジャケットについても、仕立てについて語るべきことは全く同様。しかし生地について語るには、ありとあらゆる賛辞をもってしても不足かもしれません。
これはHolland & Sherry のヴィクトリーの中でも少し起毛感のあるSupreme Victoryです。そのクオリティは、ビンテージの最高峰というべきもの。しかし私は個人的に、この色と柄がたまらなく好きなのです。
何度「これだけは自分のジャケットを仕立てよう」と思いながら眺めたことでしょう。素晴らしく上品な千鳥格子、グレーの絶妙なトーン、そしてヴィクトリーの生地感……。あとは秋冬にお客様が店に着てきてくださるのを待つとしましょう。
こちらはご存じ、ドーメルのSuper Brioで仕立てたスーツ。モヘアらしいエッジの立つ端正な佇まいは、フィッティングの良さがあって初めて生まれるものです。仕立て映えする生地というのは、逆に言えば仕立ての完成度を如実に反映する生地でもあるのですから。
しかし素晴らしいという他ないでしょう。どちらかというとしなやかな風合いだったジャケットのラペルに比べ、こちらはシャープで洗練された雰囲気。同じカッティングで仕立てているので、生地の風合いでこれほどにも雰囲気が変わることに驚きます。
サルトリア・ピッチリーロの仕立ては、アンコンストラクテッドとは対極にあるクラシックなもの。しっかりとした心地を柔らかく手縫いで据え付けることで、着心地の柔らかさと立体的なシルエットやドレープ感を両立しています。
そこにモヘアの生地ということで想像よりも構築的になりがちですが、今回はフィッティングの良さのおかげでそれを感じさせないほど軽快な着心地(とのこと)でした。
ちなみにこの杢が美しいドーメルのヴィンテージ・スーパーブリオは以前私がイギリスからロールで買ったもの。おかげでまだ在庫があるのですが、根強いファンがいらっしゃるのでもしかすると急に売り切れてしまうかもしれません。
最後にこのスリーピーススーツをご紹介して終わりましょう。こちらはHolland & Sherryのヴィンテージ、モヘアにビキューナとカシミアを混紡した生地です。こちらは上のスーパーブリオより幾分柔らかく、着心地も良さそうでしたが、そのかわりに襟周りのフィッティングがシビアでした。一度お預かりしてナポリの工房で調整させていただき、完璧なフィッティングになりました。
美しい仕上がりです。スリーピースのスーツは上着のフィッティングが緩慢になりがちですが、ジレをしっかりと合わせることでこのように美しいシルエットに仕上げることが可能です。
と、偉そうに言いつつジレも納品ごに一度調整させていただきました。仮縫い、中縫いのフィッティングを写真や動画で行っているため、体型補正の細かな部分でわずかに完璧に至らない場合もあります。そのような場合は、ちゃんと修正をして完璧にしてからお納めをします。(納品はあくまで製作の最終段階であり、終わりではない、と私は常々思うのです。)
それでは、ご機嫌よう。