こんにちは、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の大橋です。
今日もお客様にご納品させて頂いたサルトリア・チャルディのジャケットをご紹介いたします。
こちらのジャケットはビンテージのウーステッドカシミア。
サルトリア・チャルディのトランクショーではこの手の生地が大変人気で、私もいつもオススメさせていただいております。
極上カシミアをしっかりと密に織り上げたウーステッドカシミアというのは、いわば新鮮な最上級のコーヒー豆で濃厚なエスプレッソを入れるようなもの。
……ん?
いや、またこういうよくわからない喩えをして皆さんを混乱させ、バルで1ユーロのエスプレッソを飲むようにサルトリア・チャルディをオーダーして貰おうなんて、そんな魂胆ではありません。
こういうことです。
エスプレッソは実に美味しい飲み物ですが、上質で新鮮な豆を使うことで、ドリップコーヒーよりもはるかに強烈に香りや味わいを感じることができます。
ナポリでは、8時間のデスクワーク後のコーヒー飲み残し分くらいしか抽出せず、いわゆる「リストレット」のようなエスプレッソを淹れます。その濃厚さは世界一、一度飲むともう他の場所で飲めなくなってしまうほどのものです。
話が長くなりましたが、一般的なふんわりとした紡毛カシミアがドリップコーヒーなら、ウーステッドカシミアはエスプレッソです。
とろけるような滑らかさで光沢に富むカシミアを、ウーステッドとして密に折り上げることで、その良さをぎゅっと凝縮するのです。
仕立て栄えすることはもちろんのこと。持ったときの感覚はまるで、美しいニンフの濡れた髪を梳かすかのよう(?)。
このなんとも言えない喩えが、親愛なる読者の皆さんに伝わると良いのですが…。まあ、一言でいえば「ふんわり」が「しっとり」になる、とそういうわけです。
さて、仕立てについても少し。
いかがです。もうコテコテの解説は必要ないでしょう。
美しい雨降らし袖、前肩に合わせて芸術的にカーブしたシームライン。そして複雑な人間の体型をなぞるようなカッティングで実現する極上のアームホール。
太陽の光で陰影を浮かび上がらせると、一見シンプルで控えめに見えるサルトリア・チャルディの仕立てがいかに複雑なディテールの組み合わせになっているかわかります。
ラペルの雰囲気は相変わらずコンサバティブです。
決して低くも高くもなく、着る人の体格から割り出したベストな一点にゴージラインを持ってくる仕立てです。
控えめながら立体を浮き上がらせる彫刻的なバルカポケット、細かく繊細なダブルステッチ。そして宝石かアクセサリーのように輝き、繊細な美しさを湛えるボタンホール。
一流の仕立てとは、やはりこういうものでしょう。
サルトリア・チャルディはファッションではなく、常にナポリの重要な文化の一部であり続けています。
レナートから意志を継いだエンツォやロベルトだけでなく、仕立てる側もそれを理解しています。だからこそドイツの王子やヨーロッパ中の貴族、アーティスト、数々の富豪達がこのサルトリアに足繁く通うのです。
他のサルトリアが踏み込むことのできない領域、それはこの高尚さでしょう。
しかしサルトリア・チャルディで仕立てる人は誰もがその片鱗を体感し、この文化の一部の担い手となるのです。