EUROTEX ユーロテックス – 60年代フェラーリと大理石の別荘を買う喩え

鮮やかな日の差し込む朝、冬の訪れを遠くに感じながら。

相変わらずルチアーノ・パヴァロッティに偏ったオペラを流しつつ、ありとあらゆる空間を埋め尽くす生地をたたんでは開いて「ああ、なんと美しい」とうっとりしていた私は、何かをすっかり忘れているような気がしました。

「はて、いったい何を忘れているのだろうか?」

私はすっかり何も思い出せないままに、静岡のしがない洋服店のブログを開いてぼんやりと眺めました。

すると気がついたのです。

ブログがめっきり書かれていないということに…!

Gloria all’ebbrezza e all’amore che ha vinto
e al Blog la pace ridà,
la pace ridà!

栄光あれ 勝利した陶酔と愛よ
ブログに平和がよみがえる、
平和がよみがえるのだ!
『トゥーランドット』- ジャコモ・プッチーニより

EUROTEX ユーロテックスの再来

さて今回は私の稚拙な執筆が千万の時を経て復活しただけでなく、大変素晴らしい生地の久しぶりの日本再来という記念すべきブログなので、今しばらくお付き合いいただきましょう。

EUROTEX ユーロテックス。

イタリア語の発音にこだわるのであればエウロテックスと書くのが良いのですが、カラッチオーロ=カラッチョロの表記問題と同じく、ここは読みやすいユーロテックスといたしましょう。(いずれにしても本場の発音とは違うのだから、あまりこだわる必要はないでしょう)

この生地ブランドをご存知の方は、おそらくかなり昔からビスポークの世界に慣れ親しんだ方のはず。

ローマの老舗生地商であり、イタリア中のサルトリアがDRAPERSドラッパーズに並んで絶大な信頼を寄せるのが、このEUROTEX ユーロテックス。

DRAPERSドラッパーズがほとんどヴィターレ・バルベリスの別ブランドとして扱われる現在では、イタリアには有名な生地商ブランドがほんのわずかしか残っていないのです。

そんな中EUROTEX ユーロテックスは頑なに昔ながらの生地商であり続け、イタリアや英国の織元に最高品質の生地ばかりを別注している孤高のブランドなのです。

ずいぶん前に一時的に日本にも入ってきていたようですが、その後しばらく取り扱いがありませんでした。

そして今回当店とアンニセッサンタで扱うことで、実に久しぶりにEUROTEX ユーロテックスが日本に再来することになったのです。

EUROTEX ユーロテックスは生地商のプライドとして、「他で手に入る生地を取り扱わない」と言います。織元のバンチを見たとしてもユーロテックスで売っている生地は載っていないと、そういうわけなのですね。

つまり実に美味しいことに、EUROTEX ユーロテックスの生地は今、日本だと当店とアンニセッサンタでしか手に入らない!ということなのですな。

今のところは…。

紳士の色彩、貴族の香り

EUROTEX ユーロテックスの生地の魅力を月並みに説明するとしたら、やはり目付けがよく仕立て栄えすることなのでしょう。

どれもさらりとして比較的薄手な生地感なのに、なんともハリがある。手のひらに載せれば、その手触りからは想像できないほどずっしりとしています。そしてあの目付の良いウーステッドだけが持つ「冷たい重さ」を感じるのです。

例えば同じ260g/mで他の生地メーカーのものと比べたら、ユーロテックスの生地に圧倒的な強さを感じるでしょう。仕立てたときのシルエットの美しさといったら、ちょうどもはや手に入らないビンテージのH&Sのようです。

しかし「仕立て栄えする生地」というのは他にもあります。それなのに洋服屋の店主も、ナポリの仕立て屋もコソコソと自分の服をEUROTEX ユーロテックスで仕立てているのはなぜか。

それを説明するにはどうしたらよいか考え、この二つの言葉を選ぶのに至ったのです。

紳士の色彩、貴族の香り。

EUROTEX ユーロテックスはいつも「うちはクラシックなものしかやらない」、とこのように言います。これは実にその通りで、EUROTEX ユーロテックスのバンチをめくれば奇抜なものは一切ないといっても過言ではありません。

スーツは常にネイビーとグレーを基調にしながら、エレガントな色を組み合わせたダークトーンの柄物へと派生していく。ジャケット生地は(イタリア人にとって偉大な)50年代と60年代を思わせるガンクラブチェックやグレンチェックをメインとして、どれをとっても上品です。

DRAPERS ドラッパーズやCACCIOPPOLI カチョッポリの生地が洒落者の色彩だとしたら、EUROTEX ユーロテックスは紳士の色彩。

そしてEUROTEX ユーロテックスの生地が圧倒的に他と異なるのは、その一貫した深い光沢です。

この光沢にはあの貴族的な香りがあるのです。

例えば純銀のピュイフォルカ、サンルイのクリスタルランプ、ラツィオ原産の大理石で埋め尽くされたフローリング、丁寧にレストアされた1960年代フェラーリのボディのような…。

しかし極上の1962年製フェラーリ 250GTと、ラツィオの大理石“トラバーチン”を敷き詰めた別荘を手に入れようと思うと、両方で10億円ばかり必要ということになってしまいます。

そこでこのEUROTEX ユーロテックスの出番です。

大理石の別荘をやめて、ユーロテックスで仕立てるビスポークスーツに。フェラーリ 250GTを一旦保留にして、(ワイパーが動かずウインカーがランダムに点滅する程度の)極上中古マセラティにすれば、実に9億9500万円以上のお釣りが返ってくるというわけです。

なんて魅力的な話でしょう。

そしてこの回りくどい演説に「確かにその通りだ!」と共感したお客様が、今日の夜中にはすっかり目が回って、来店予約をしてしまうとそういうわけですな。

かの傍若無人な店主はこう返信するでしょう。

お客様、まあお待ちください。今から数日後、あなた様がユーロテックスの生地を見たくて仕方がなくなったころ、あなた様は新しいブログが更新されているの見つけるでしょう。そしてそこにはある晴れた日に、待ち焦がれた船が遠くで汽笛を鳴らした時のような、歓喜にあふれた一言が書かれているのです。

「ユーロテックス限定、特別価格キャンペーン!」

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