「生地を見たいかい?それならとっておきのカシミアがあるよ。心配ないさ、紺だよ。それも最高にクールな紺さ」
イタリア語で紺色のことを“Blu=ブルー”と言うが、ジャンニ・ピッチリーロはそれを“Ble=ブレ”と発音する。これは生粋のナポリ言葉で、ブルボン王朝支配下にあったナポリらしくフランス語的なニュアンスを持っている。しかし優雅というよりは、べらんめえ的な粗野な響きがある。
ナポリは18世紀から今に至るまで、常に格差社会だ。時代の流れの中で、下町と高級な住宅街やブティック街は明確に線を引かれてきた。人々にその垣根を超えさせるのはいつも職人だ。高台Vomeroの高級アパルトメントに住む公証人も、Possilippoの海の見えるヴィラに住む名士も、素晴らしい洋服を求めて下町のサルトリア・ピッチリーロに“降(くだ)ってくる”のである。
さて、話を戻そう。
ここにあるのは似て非なる二つのカシミアだ。どちらも同じネイビーのウーステッドカシミアだが、その存在意義は全く異なる。
Loro Piana Pure Cashmere “Worsted” Coating(売り切れ)
一つ目は限りなく黒に近いダークネイビーのヘリンボーンである。
バンチから購入すれば着分で30万円はくだらない、あまりにも贅沢なロロピアーナのカシミアコート生地だ。しかしそんな“些細なこと”でこの生地を語るのは勿体無い。この生地にはもっと圧倒的な凄さがある。
それはこれが500g/mのウーステッドカシミア生地であるということだ。
ピュアカシミアは高級だが、その中でも最もハイエンドとされるのがウーステッドのカシミアだ。緻密に織り上げたウーステッドカシミアは重厚感があり、目が詰まっていて極上のドレープを描いてくれる。通常のカシミアよりもやや薄い生地厚のおかげで、ディテールが非常にシャープに仕上がる。
これはポロコートのフラップ付きパッチポケットやターンナップカフが薄く精巧に仕上がったり、袖付け部分の仕上がりが洗練された雰囲気になったりと、実に大きな恩恵である。
ウーステッドの目の詰まった重厚感、しっとりと凝縮された手触り。そして硬質で濡れたような光沢感。この生地感ばかりは、明るく華やかなネイビーよりも黒に近いミッドナイトネイビーの方が美しいと言わざるを得ない。艶やかで、控えめながらも極上の色気に満ちている。
ウーステッドのカシミアコートはいつまでも美しい。それがジャンニ・ピッチリーロの仕立てとくれば、何年経っても最上のドレープを描いてくれるだろう。これほどにも美しいカシミアのコートを逃すのはあまりにも惜しい。
Sartoria Piccirillo Bespoke MTM コート 仮縫い&中縫い付き 売り切れ
通常価格 636,900円 → 特別価格 450,000円(税込 495,000円)
※ポロコートは別途相談
Dormeuil Pure Worsted Cashmere Twill
どうして美しいものというのは一挙に訪れるのだろう。これはドーメルのウーステッドカシミアで、おそらく数あるネイビージャケットの中でも格別に美しいロイヤルネイビーで、そして一度見たら忘れられないようなツイル織である。
私だってもちろん理解している。このブログの読者のワードローブでは、似たようなネイビーのジャケットが飽和状態にあるということは、重々承知だ。
だがこのツイル織はどうだろう。まるで乙女の濡れた黒髪を櫛でとかしたような、あまりにも官能的な織模様である。それもルブランのフランス絵画なんかではお目にかかれない、艶やかに伸びた長髪だ。
ドーメルの英国製カシミアウーステッドだけあり、その腰の強さと目付けの良さは圧倒的だ。滑り落ちるような手触りからは想像できないようなストイックのドレープを描いてくれるだろう。
そしてこの美しい生地感は、ダブルで仕立てるべきと相場が決まっている。
というのも無地のダブルジャケットというのは見える面積が大きいためにどうしても凡庸な雰囲気になりがちだ。かといってただ光沢が美しいだけではフォーマル感が強く、どうもジャケット単体での運用がし辛い。そこに織り柄の出番である。これが入ることで抑揚が出て、ダブルジャケットとして美しく決まるのである
にしてもここまで美しく繊細なツイル模様だったら、やるべきことは簡単だ。フラップポケットにグレー系のマザーオブパールもしくはメタルのボタンだ。少しくらいやりすぎでも良い。この上なくエレガントなネイビージャケットとして、重要な場面でご活躍願おう。
Sartoria Piccirillo Bespoke MTM ジャケット 仮縫い&中縫い付き
通常価格 543,400円 → 特別価格 390,000円(税込 429,000円)
もちろん今回も早いもの勝ち、各一着分ずつである。
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