ICONIC VINTAGE《象徴的なビンテージ》 × Sartoria Caracciolo

ビンテージ生地の人気ぶりと言えば、私も全く想定したいなかったほどである。

そもそもこの話は安直に「懐古主義」という言葉で説明できるほど単純ではない。さまざまなジャンルにビンテージが存在するが、ビンテージ生地というものは非常に特殊なのである。

というのも多くの世界においてビンテージといえば、USEDを意味する。誰かが愛し、大事にする。そして然るべきタイミングで、それを次の人に引き渡す。それを繰り返しても価値が下がらないビンテージは多いし、むしろ価値の上がるものもある。

例えば極上のビンテージ・マセラティを手に入れた人が、好き勝手改造したら批難が殺到することだろう。なぜならそれは人類の財産であり、オーナーとはいえ「一時預かり人」に過ぎないからである。

それに対してビンテージ生地は古いのにNEW – UNUSEDだ。その時代を感じさせる美しい色柄、その時々にしか存在しない素材、織り方、そして発色……。それら全てを兼ね備えながらも、全く未使用なのである。

そしてこの素晴らしいタイムカプセルを自分の好きな形でオーダーし、ジャケットやスーツにして自分の身に纏うことができるのだから、ある意味ほかのどんなビンテージ品よりも興味深く、価値のある存在なのである。

さて、今回はそんな中でも実に面白い生地を三つ紹介しよう。これらはサルトリア・カラッチオーロで仕立てるために私がナポリの生地店から引っ張り出してきたビンテージである。決して無難な生地ではない。しかし面白い。

ジャケットは着こなしやすいもの大事だが、もっと大切なのは自分の感覚をリプレゼント(代理で表現)してくれることだ。美しいチェック柄のジャケットはそれを着ているだけでアイコンになる。

1. Grigio Vintage(売り切れ)

WOOL 約260g/m 春夏メインのスリーシーズン

滅多にお目にかかれないチェック柄である。さながら1960年のイタリアに旅行して、すっかりイタリアかぶれになってしまったプリンス・オブ・ウェールズといったところである。

ミディアムグレーを基調とし、ノスタルジックなラインで構成されたチェック柄は、生地そのものを見れば60年代のビンテージだ。しかし柔らかい。滑らかで光沢もある極上のウールで、ざっくりとした柄からは想像できないほど滑らかな手触りである。

これをジャケットにしたとき、一体どれほどラグジュアリーな雰囲気を醸し出すことだろう。往年のアットリーニやロンドンハウスを思わせる色気あるカジュアルだ。

ダークブラウンのトラウザーに合わせてナポリイエローの小物を差せば、キアイア通りのルビナッチに入り浸るナポリ上流階級の紳士といった雰囲気になる。

もしそれがスノッブすぎるようならば、シンプルなクリーム色のコットンパンツに、好きな色のニットを着てこのジャケットを羽織るといい。カラヴァッジョの絵のタイトルを全て暗記しなくても、容易に知的な印象を得ることができるはずだ。

この生地で仕立てるのであれば、3つボタン段返りのシングルジャケットに玉縁ポケットで、最もスマートなカジュアルジャケットにすると良い。

着込んでポケットの口元が少しだらしなくなってきた頃には、素晴らしい風格のジャケットに仕上がっているはずだ。それはスプレッツァトゥーラ(リラックスしたエレガンス)ともノスタルジーア(懐かしさ)とも言える雰囲気だが、いずれにしても大変にナポリ的なのは間違いない。

2. Blu Quadri(売り切れ)

Wool & Silk 約340g/m 秋冬メインのスリーシーズン

こちらは少し重厚な生地だ。起毛感もなくさらっとしているが、生地の目付けが良く英国の伝統的な「WORSTED」を感じさせる。(いくぶん口をすぼめて、勿体ぶった様子でウーステッドと発音すると良い。)

しかし洒脱な色合いと官能的な手触りは明らかにイタリア的だ。

これは髭の生えた田舎の英国人がウイスキーをうっかりこぼすジャケット生地というよりは、英国気取りのナポレターノがナポリ湾の見えるレストランでのディナーに着ていく遊びジャケットの生地である。

奥ゆかしいネイビーのトーン合わせと滲み出るラグジュアリーとも言える光沢感、そしてそれらの組み合わせが生み出すエモツィオーネ(表情)は実にナポレターノ好みだ。しかし先ほども書いたように、目付けが良い。シワにならないのはもちろん、ジャケットにした時の立体感は特筆すべき美しさだろう。

秋冬にはツイードやフランネルを選びがちだが、ウーステッドのカジュアルジャケットというのは実に良い選択だ。室内でもエレガントでサマになるし、何よりも色気がある。

このジャケットもまたシングル3つボタン段返りが良いだろう。

先ほどのジャケットのような玉縁ポケットは実にエレガントだろうが、ナポリの洒落者だったらフラップ付きにチェンジポケットを追加して英国的な雰囲気にするかもしれない。ブラウンのナット系ボタンをつけるのも良い。要するに……自由ということだ。

グレーのトラウザーを合わせても良いが、遊びならチノパンだ。デニムも良いが、淡い色がいい。ブラウンのボタンを選んだ運の良い人は、お気に入りのブラウンシューズを遠慮なく合わせよう。全く、遊びばかりが上手になって実によろしくないジャケットだ。

3. The BRITISH RAREST(売り切れ)

WOOL & MINK & CASHMERE 約380g/m 秋冬

ごく稀に、それも思いがけぬタイミングで目を見張るようなビンテージ生地と出会うことがある。それは2度と手に入らないはずだった絶版生地であったり、今では見ることのない美しい色柄だったりする。

しかしこの生地に出会った時の衝撃は、それよりも更に強いものであった。

なにしろカシミア&ミンクである。ビンテージのジャケット生地でこの組み合わせを見ることは滅多にない。それでいて目付けの良い英国織。まるで忘れられたツイードのようにずっしりとしていて、30年は枕にできそうだ。ところが手触りは柔らかく、光沢はプラチナを散りばめたようである。

そしてこの色柄である。太陽光があたった瞬間に、まるで総合芸術のように浮かび上がるこのチェック柄は、数あるグレンチェックの中でも最も出会うのが難しいタイプのものだ。色の表現はそれぞれ見た人に任せよう。私がここで言えることは、恐ろしく美しく、贅沢で、そして稀有なものだということである。

いや、この生地については主張し過ぎず、あくまでエレガントな雰囲気であることも付けたそう。

一目惚れして仕立てたものの手が伸びないジャケット、というのは少なくない。しかしこれに関して言えば秋冬の定番になるはずだ。もしかすると気に入り過ぎて毎日着てしまうかもしれない。だがそれも良いだろう。なぜなら英国の重厚なウーステッドなのだから。着れば着るほど美しさを増す。

やはりシングル3つボタンのジャケットが合うだろう。しかしこれは2パッチポケットが良い。何年も着込めるように総裏にしよう。その時、裏地の色にちょっとばかり要望を出しても良いかもしれない。

ジャケットが仕上がって来たら、しばらくはいつも履いているデニムやコットンパンツに合わせて出かけよう。

着慣れてきたら、白いトラウザーと合わせると良い。というのはよくある白パンのようなものではなく、静岡の小さなナポリ仕立て専門店でしか到底仕立てられないような、クリームホワイトの上品なウールのビスポークトラウザーだ。

それがどれほどエレガントかって、それはナポリ中の紳士たちが羨み、ため息を吐くほどだ。

Iconic Vintage × Sartoria Caracciolo MTM

これら3つの生地はどのサルトリアでも仕立てることが可能だが、今回サルトリア・カラッチオーロMTMで仕立てる人には大変良いチャンスだ。

それは私とサルトリア・カラッチオーロのオーナー Nicola Giordano(ニコラ・ジョルダーノ)が結託して、また扇動的なスペシャルプライスにするからである。

Sartoria Caracciolo MTM(来店、東京出張、オンラインいずれも可能)

1. Grigio Vintage 通常価格 283,800円(税込)→ 売り切れ

2. Blu Quadri 通常価格 283,800円(税込)→ 売り切れ

3. The BRITISH RAREST 通常価格 305,800円(税込)→ 売り切れ

ご注文は各1着のみ(先着順)、コンタクトフォームからお問い合わせを。それではご機嫌よう。