こんにちは、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の大橋です。
当店でオーダーされたことのあるお客様ならばご存知の通り、プロフェソーレ・ランバルディ静岡では仮縫いに力を入れております。
扱っている洋服は、シャツを含め全てオプション仮縫いを行うことが可能です。
唐突ではありますが、この仮縫い状態のジャケットというのがなかなか美しいのです。
無数の糸が生地の上を走る様子は、まるでナポリの神々しく芸術的なアーケードであるガレリア・ウンベルトがまだ建築中だったときの姿のよう………いや、ガレリア・ウンベルトの完成は1890年なので、私が見たのは作業員がサボっていて、いつまで経っても修復が終わらない姿でしたね。
まあ、同じようなものでしょう。
しかし本当に、建築のようではありませんか!一応厚みがあるとはいえ、ほとんど2次元の存在というべき一枚の生地が、人間の複雑な体型を包み込むようなシルエットに仕上がっていく過程。
私はもう何度もお客様の仮縫いをしてその姿を見ていますが、それでもまだ感動してしまいます。
特に繊細な極上生地でジャケットを形作るのは、柔らかな純銀でパンテオンのドームを築くような作業です。
…わかりにくいですって?絹ごし豆腐で「かまくら」を作るのを想像すると良いでしょう。
仮縫いのとき、ジャケットはまだざっくりと裁断されていますが、これはしっかりと切ってしまうと、サイズ調整が効かなくなってしまうからです。
どこまで製作を進めておくかという点はサルトリアによって異なりますが、仮縫い(イタリア語で言うところのPrima Prova プリマプローヴァ)は大抵このような姿です。
ジャケットの形をしており、だいたいのシルエットはわかる状態ですが、着丈の調整等ができるようにポケットはまだ切っていません。
それにしても、いい生地を持ち込んでオーダー頂きました。極上のウールにカシミアとサファイアミンクを混紡したウーステッド。極上の風合いを持ちながらも実にハリのある生地感で、素晴らしい立体感を見せてくれます。
色はベーシックなネイビーですが、そのしっとりと上品な光沢でクオリティの高さをうかがい知ることができます。
仮縫いは、生地が最初にジャケットやトラウザーの形になる瞬間です。
試着したお客様の反応は基本的に以下のふた通り。
スーツやジャケットの生地は、実際に形になってみるとまた別の印象を見せるものです。バンチよりも断然良くなることもあれば、結構派手だったりすることも。
今日のお客様ともお話していましたが、「自分が憧れるもの」と「自分に似合う物」の間にはそこそこの乖離があるものです。イデアの世界と現実世界くらいに差があります。
私は最初の頃、ブラウンのガンクラブチェックのスーツに強く憧れ、耐えきれず仕立てては「森から出てきた熊のようだ」と散々に言われたものです。
どんなものが自分に似合うかは、自分よりも周りの人の方がよく知っていたりします。素直に周りの意見にも耳を傾けてみると、仮縫いで上の画像のソクラテスのような顔をしなくて済むようになることでしょう。
最後に、ジャンニ・ピッチリーロの仮縫いの一番の楽しみはやはりこれです。
全部手縫いで仕上げられた芯地のハ刺しを見ること。
もちろんサルトリア・チャルディや、カラッチオーロのハンドメイドラインも同じように手縫いなのですが、この二つは基本的に中縫い(Seconda Prova セコンダプローヴァ)の状態で来るために、ハ刺しをお客様にお見せできないのです。
サルトリア・ピッチリーロの仮縫いのお客様は、店主がデスクで何やらしているうちに、ぜひジャケットをめくってこの美しい手縫いのハ刺しをご覧ください。
それでは、ごきげんよう。