こんにちは、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の大橋です。
最近は至極まともに記事を書いておりますが、実はその背景にはある野心があるのです。
それはこの弱小ブログで英国の某ビスポーク専門マガジン、ないしはイタリアの某スミズーラ専門マガジンを撃破しようという、いわばセルバンテスのDon Quijoteの世界ですね。※一応ご紹介いたしますと、騎士道物語を読みすぎた主人公が、自分を騎士だと思い込んで旅に出かける話です。
さて、その第一弾として、今回は皆さんにクラシック界を席巻するベルトレスのトラウザーズを紹介いたしましょう。
ベルトレス トラウザーズの夜明け
スーツといえばベルトをするもの、おそらくクラシックスタイルに興味のない人に聞けばそのような答えが返ってくるでしょう。
会社でスーツにベルトをしていなければ、きっと親切な部長があなたをお手洗いに連れていって、こっそり「ベルト忘れてるよ」と教えてくれるはずです。
確かに、ビジネススーツにはベルトが不可欠です。細かなストライプのいかにもビジネス向けのスーツで、しかもベルトループが付いているスーツでベルトをしないのは、フィッシュ&チップスにモルトビネガーをかけずに食べるくらいに馬鹿馬鹿しいことなのです。
しかしカジュアルなスーツスタイルや、ジャケットスタイルともなれば話は別です。今、クラシックスタイルの世界では、ベルトレスのトラウザーズが全盛期となっているのですから。
ちょうど2~3年前のPittiからかなり頻繁に見られるようになったベルトレスのトラウザーズ。
もちろん昔から一部の人たちには定番として愛されていた仕様ですが、今ここにきて世界的な一大ブームとなりつつあるのです。
サルトリア・ナポレターナを愛するビスポークファンの殆どがベルトレスのトラウザーズをオーダーしますし、既製服のブランドでもベルトレスにサイドアジャスターというスタイルがかなり増えつつあります。
ナポリ仕立てを扱うセレクトショップが展開するいわゆるサルト物のスーツやトラウザーズはもちろんのこと、スティレ・ラティーノといった定番のブランドでもベルトレス、そしてサイドアジャスターが見られますね。
そういう流れもあって、これからスーツを仕立てる方にはぜひ挑戦して頂きたいのが、ベルトレスのスタイルなのです。
ベルトレスならではの魅力とは
個人的に仕立てているトラウザーズも、結局ツープリーツにやや深めの股上、すそ幅19cmのダブル巾4.5cm、ノークッション丈にベルトレスです。結局私もベルトレスが好きなのです。
しかしなぜここまでベルトレスのトラウザーズが注目されているのか。
それはベルトレスならではの魅力があるからに違いありません。
そしてその大きな魅力は主に二つでしょう。一つはクラシカルな趣があること。そしてもう一つはベルトレスのトラウザーズは、サルトリアによって様々な表情を楽しめるからです。
順にご説明致しましょう。
まずベルトレスのクラシカルな趣ですが、これはご覧いただければなんとなくご理解いただけるかと思います。
ベルトをしたスーツよりもさらにシンプルで、削ぎ落とされたシンプルなスタイルは、往年のスーツを感じさせるものがありますよね。
もともとスリーピースが正当であったスーツにはベルトが存在せず、ブレイシーズ(サスペンダー)でトラウザーズを履くのが当然でした。ベルトレスのスタイルにはそのような、昔ながらの着こなしを思わせるものがあるのです。
ちなみにベルト部分の幅が広くなればなるほど、そのクラシカルさ(クラシックなというよりは、古めかしさという意味です)は増していきます。
これは主に股上が深くなるからですが、19世紀のスーツのようなフォーマルさを連想させていることも理由として挙げて良さそうです。
さらにこのベルト部分の太いデザインは、モード系のブランドで流行しているグルカパンツ等の影響もあると言われています。
そしてベルトレスのトラウザーズ、もう一つの魅力。それはサルトリアによって全く異なる表情を楽しめることです。また自分でディテールを決定することで、自分だけのテイストを実現することもできます。
例えばこちらは、私がナポリの友人である26歳の女性のサルタに仕立ててもらったトラウザーズ。
先ほどの写真、Sartoria Piccirillo サルトリア・ピッチリーロにて仕立ててもらったトラウザーズに比べると、随分と雰囲気が違います。
実はこのディテールは彼女にお願いしてお任せで提案してもらったのですが、奇しくも近い年齢の私たちがほとんど同じようなテイストを持っていたことに驚きました。
彼女のトラウザーズは持ち出し部分が長く、また先端に向かってほんのわずかに細くなっていきます。丁寧に入ったハンドステッチ、フラップの付いたコインポケットが合間って大変美しい雰囲気です。
ちなみに個人的な好みでサイドアジャスターはつけていません。
ベルトのついたトラウザーズではある程度形が決まってしまいますが、ベルトレスの場合はこのようにサルトリアの個性や自分のテイストで様々なものが楽しめる。
特に少し変則的なデザインのベルトレスであれば、誰もが一見してそれがビスポークであることを感じ取る。すなわちビスポーク全盛期の現在にはぴったりな仕様なのです。
皆さんもぜひ、次のビスポークトラウザーズは、ベルトレスに挑戦してみてください。
プロフェソーレ・ランバルディ静岡では、Sartoria Ciardi サルトリア・チャルディとSartoria Caracciolo サルトリア・カラッチオーロで、ビスポークやメジャーメイドのトラウザーズを受注しています。
ベルトレスの仕様も自由に選べますので、ぜひお試しくださいね。