こんばんは、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の大橋です。

今日は珍しくバローロも、バルバレスコも、キャンティも、果てはカンパーニャ州の安いアリアニコ種のワインさえも飲まずに記事を執筆しております。

よって、今回は支離滅裂としていない素晴らしい文章を期待できますので、ぜひ最後までお付き合いください。

さて、今回は皆さんにサルトリアが仕立てるスーツが、そうでないスーツ(例えばファクトリー製の中堅グレードといわれるスーツ)と何が違うのか。それを解説していきたいと思います。

サルトリアの仕立てたスーツは手に入らない?

サルトリア・チャルディは世界的に有名なサルトリアだが、たった数人の職人で仕立てている。

と、書き出しては見たものの、実は日本では本当にサルトリアが仕立てたスーツなど、それほどたくさん手に入るものではないのです。

日本には「サルトリア」と名前のついたブランドや、名付けられたオーダースーツのモデルなどが沢山ありますが、それはあくまでサルトリアのテイストを取り入れたものであり、サルトリアが実際に仕立てたものではないのです。

本当のサルトリアはむしろ、あなたの街にこそ存在しています。それは仕入れ時は新作コレクションだったはずのドーメルがなぜか40年モノのビンテージになってしまっている、街の古めかしいテーラーです。

日本の昔ながらのテーラー文化は誂え服が廃れるのと同時に停滞してしまい、今日本で注目されているのはイタリアや英国で修行をした、いわば里帰りの職人たちですよね。

しかし、本物のサルトリアが仕立てたスーツについて考えるには、この古めかしいテーラーを思い浮かべると丁度イメージが湧きやすいのです。

この昔ながらのテーラーが、どれだけ既製服を作れるか?

いや、そうたくさんは作れないでしょう。

そしてイタリアのサルトリアも同じです。彼らは世界中から注目されていることで、未だに生き生きとサルトリア文化を継承していますが、しかし規模や仕事への向き合い方はあの昔ながらのテーラーとそれほど変わらないものなのです。

だから、本物のサルトリア仕立てのスーツやジャケットは日本でもそれほど多く取り扱われておらず、ファクトリーで手仕事の割合を多くしたり、あるいは雰囲気を取り込んだりして作っているものが少なくないのです。

サルトリアとファクトリーの違い

カサルヌォーヴォにたたむずむサルトリアに近いファクトリー。日本で有名な「ラテン風」ブランドも手がける。

ナポリでは各サルトリアが本物のサルトリアとしての自覚と、誇りを持っています。ですから彼らは先ほど書いたようなファクトリーで作られたサルトリア風の服と並べられるのを嫌います。

ナポリのサルト達にとってサルトリアはあくまで仕立て屋であり、いくら既製服を作ろうともファクトリーではないからですね。

ナポリではFabbricaすなわち工場(とはいっても、実際は工房と工場の境目くらいの小ささ)で作られた服はConfezioneと呼ばれ、仕立て服とは明確に分けれます。厳密に言うとキートンやアットリーニ等のブランドも、Semi-confezioneと呼ばれます。

日本で売られているブランドで言えば、高品質なマシンメイドと呼ばれているものもConfezione、ハンドメイドと呼ばれている既製服の多くがSemi-confezioneとなるわけですね。ちょっと厳しい分類ですが、ナポリのサルトリアのプライドを感じます。

では何が根本的に違うのか。

実際にはファクトリー製であろうとサルトリア製であろうと、結局腕のいい職人がいれば違いはありません。しかし一般的にはサルトリアでは仕立て服と何百、何千と対峙してきた職人が服を作りますし、ファクトリーでは既製服を作ることに慣れた職人(逆に言うとビスポークは仕立てられないことがある)が作ることになります。

また小さなサルトリアでは数人で一着のスーツを担当しますが、ファクトリーではより多くの人が一着のスーツに関わるようになります。

それはなぜかと言えば、ファクトリーでは一人の職人が担当する部分がより少なくなり、いわゆる原始的なマニュファクチュア(工場制手工業)の形で分業して一着を作るようになるからですね。

同じ手縫いでもサルトリアのスーツは意味が異なる

サルトリア・ダルクォーレの職人。素早く、そして確実に縫い上げる。

ここでどんな違いが生まれるのでしょうか?

一概には言えませんが多くの人が関わると、ある意味スーツは平均化します。逆に一人が多く関わって作られたサルトリアの仕立て服のような既成スーツは、ある程度その一人のイメージに沿って作られていくので、キャラクターが反映されやすくなります。

例えば仕立てに非常に特徴のある人気サルトリアが既製服を展開したが、見てみたら妙に没個性なスーツに見えたという経験があるかもしれません。

ビスポークではそのサルトリアの名前を背負うサルトが自分のイメージでスーツを仕立てるが、既製服は型紙こそ彼の作品であっても、多くの職人が手がけるため仕立てが凡庸になってしまうことがあるのです。

また、Confezioneを手がけるファクトリーは、バイヤーの希望で手縫いの割合を増やすこともあります。

もちろん手縫いによってクオリティが高まることもありますが、やはりビスポークを繰り返してきたサルトリアが行う「手縫い」とファクトリーがオプションで追加する「手縫い」とでは多少の違いがありますね。

サルトリアの仕立てる既成スーツは、ビスポークで培われた技術で仕立てられている。そのため、同じ部分が同じように手縫いであっても、ハンドメイドであっても、その効果や意味はやはり異なるのです。

サルトリアに近い、ファクトリーブランドとは

ファクトリーブランドとして既製服を展開するLuigi Grimaldi Napoli ルイジ・グリマルディのビスポーク。これはサルトリアの仕事と全く変わりないどころか、非常にレベルが高い。

しかしもう一つ注目すべき事実があるのです。

それが、ビスポークの技術を持つ大変レベルの高い職人が、ファクトリーで働いていることも少なくないということ。

例えばLuigi Grimaldi Napoli ルイジ・グリマルディです。

このブランドはSemi-confezioneのジャケットやスーツをメインとしているのですが、その出自はサルトリアです。現地の店舗ではサルトリアとしてビスポークを受注していますし、しかもそのサルトリアにはナポリの人々が集まってスーツをオーダーしています。

この前ナポリ出張で立ち寄ったときには、ちょうどナポリの親子が父と兄弟2人でルイジ・グリマルディに完成したスーツを受け取りに来ていました。彼らは兄弟二人がスーツをオーダーし、父がそれを見極めているという具合で、真剣そのものでした。

そのようにサルトリア出自のファクトリーでは、熟練の技術を持った職人がスーツやジャケットを作っている場合もあります。

そんな場合は、そのクオリティはやはり単なるファクトリーを超え、まるでサルトリアのようなレベルの高い仕立ての既製服を生み出すことができます。

そう、逆に言えばその仕立てを見ればそれが本物のサルトリアの関わった仕立てかどうかわかるのです。

まずは一度本物のサルトリア仕立てを体験しよう

大事なのはこれにつきます。

一度本物のサルトリアの仕立てを見て、体験することです。それはちょうどワインの味を知るのと同じです。

3,000円のキャンティを飲みなれたら、3,500円のキャンティを飲むのではなく、一度だけでも1万円のバローロを試してみる。すると逆に3,000円のキャンティの中でどれが美味しくてお得なのかもわかるようになる。

と、そんな具合でまずは本当にサルトリアが仕立てたものを体験してみるのです。

するとどれがサルトリアの仕立てたスーツか分かるようになり、逆にサルトリアと呼ばれていてもそうでないものが分かるようになる。また、マシンメイドと言われるものでも、むしろサルトリアらしい職人技の生きたスーツを、見分けられるようになるかもしれません。

……なんて、今日は3,000円のキャンティを開けるとしましょう。私はいつまでたっても、ワインの味がてんで分からないのです。

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