美しいビンテージ生地は貴重です。限られた量しか残っていない生地を使用するのですから、どのような仕立てにするかは慎重に決めなければいけません。
これはロンドンの怪しげな生地屋で見つけた、ビンテージのシルクリネン。
他の生地にも書いたように、素晴らしいクオリティのビンテージ生地を見つけるのは限りなく難しい。しかしリネン混であれば、まだまだ素晴らしい生地が見つかるのです。
幻と化したビンテージウイスキーのボトルを見つけるのは不可能でも、そのウイスキーが半分ブレンドされた別のウイスキーを見つけることはできる。とそういうわけです。
実はこの生地はいつか自分で仕立てよう…とすっかり別の生地で包み込んで隠していたものなのですが、ご縁があってお客様にお選びいただきました。
そしてリクエストがこのナポリの古典的なスリーパッチポケットのジャケット。私はどれほど歓喜したことでしょう。なぜならこれは袖口の一つボタンも含め、個人的に一押しの仕様なのです。
このジャケットに見覚えのある方もいらっしゃることでしょう。
こうしてみるとかなり近い雰囲気の二着です。英国的でクラシカルな千鳥格子にスリーパッチポケット。
なんと美しい雰囲気でしょうか。グレーの千鳥ですが、光沢のおかげで深みのあるシルバーにも見えます。
シンプルな色柄にリネンとシルクならではの生地感(とはいえ主張しすぎず、あくまで繊細な)が合間って実に洒落た印象です。
先日のブログにも書いたように、真夏のさんさんと照る太陽はもちろんのこと、夜の光でも美しく陰影を描くジャケットに仕上がっています。
今回の仕立てはサルトリア・カラッチオーロですが、ハンドメイド工程の多いニコラ・ジョルダーノと同じラインにて製作しています。
ポケットやラペルから醸し出される洗練された雰囲気、迷いのない肩のライン。全てにおいて高いクオリティを実現していながら、全体的には昔ながらの柔らかいナポリ仕立てを感じさせます。
極上のリネン生地の光沢と、きらびやかで整ったボタンホール。素晴らしい組み合わせです。
千鳥格子柄はパッチポケットにしてもポケットの存在感が強くなりすぎず、さりげない雰囲気になります。
肩周りの美しさはリネンのような柔らかい生地でも健在です。
当店のMTMではお客様の体型に合わせて肩の補正をするため、肩線や雨降らしの具合はそれぞれジャケットによって大きく異なります。
今回のジャケットは実にエレガントで、派手すぎず古典的なナポリの仕立て服へのオマージュを感じます。
先ほどもちらりと書いたように、袖口は一つボタンです。
これは最近の流行りではなく、60年代のナポリから存在する遊び心です。特にリネンのジャケットで、スリーパッチポケットのときには1つボタンにしないと勿体ないと感じるほど似合うディテール。
これからリネン系のジャケットを仕立てる方には、是非ともおすすめしたい仕様です。