ナポリで着られているのは、総裏か背抜きか

それは7坪ばかりしかないジャンニ・ピッチリーロのサルトリアで、既製服をお願いしているところだった。

「それで、今回のスーツは総裏?それとも背抜き?」

ジャンニが聞いた。

「そうだな、どちらが良いかな」

私は聞き返した。

「ちょっと硬いモヘアの生地だし、背抜きにすれば軽くなっていいかもね」

「そうか、その方がいいね」

「いっそ全部裏地無しにしよう。その分EMSの送料が安くなるぞゲヘヘ」

「よし、そうしよう、しめしめ」

そういうことで今度到着する予定のジャンニ・ピッチリーロのスーツは、背抜きで仕上がってくるのである…。

こんばんは、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の大橋です。

誰が言い出したのか、ナポリには総裏しかなくて背抜きは日本人しか着ないとか、逆にナポリは暑くて総裏を着ることなどないとか、実にいろいろなことが言われています。

しかし実際には何が着られているのか。

今日はそんなことについてちょっとだけ解説いたしましょう。

裏地の意味と効果

スーツの裏地は基本的に、ジャケットのスタイルを構築するためと、表地の消耗を防ぐため、滑りを良くして着用感をよくするため、それから縫い代や芯地などあまり外に出ていると好ましくない部分を覆ってしまう意味でつけられています。

しかし裏地の有無で生まれる最も大きな違いは、やはり着たときの体感温度でしょう。

暑い時期に総裏のスーツを着れば暑すぎてしまいますし、逆に寒い時期に背抜きでは寒く感じることがあります。

スーツに用いられる表地は同じウールでもポーラで通気性を高めたり、逆に暖かいように紡毛にしたりします。

それに対し、この裏地に使われるキュプラなどはあまり通気性のない生地です。すなわち、裏地が全面についていれば基本的には暖かく、場合によっては蒸れやすく暑くなってしまうものです。

しかし裏地がなければ良いというわけでもありません。

裏地を極端に無くした場合、例えば袖裏がないと袖の中で生地と生地が引っかかって着心地が悪い場合があります。また裏地がないスーツは、あるスーツに比べると生地自体が消耗しやすいと言います。

そういう部分を比較し、人々は裏地の有無に関して争い続けているというわけですね。

その一方で裏地がシルエットに与える影響はそれほどないと言われています。

シルエットはむしろ芯地が担う役割が大きく、よくアンコンジャケットでシルエットが悪いものは見かけますが、裏地は下記のようにゆとりを持って取り付けることもあってシルエットを保持する力はほとんどありません。

大切なのは裏地を取り付けるときに、どれだけ「動き」を考慮して取り付けられるかということです。

例えば裏地のダーツ縫い、縫い付けを全て手縫いで行った場合、甘く余裕を残して縫うことで、ジャケットの着心地を妨げないようにすることができるのです。

例えばサルトリア ・チャルディのスーツの裏地は全て手縫いでつけられています。ダーツの部分はゆるくふんわりと手で縫い合わせられており、引っ張られると伸びるようになっているのです。

ナポリでは総裏と背抜きどちらが着られているのか?

そしてよく話題になるナポリ、現地ではどうかという点です。

正直なところこれは、完全に人によるのですね。

ナポリの人々は、日本人が思うナポリ仕立てという形には囚われていない。彼らにとってサルトリアで服を仕立てることは、ある意味単なる「オーダーメイド」にすぎないのです。

ですからナポリのサルトリアにはフード付きのPコートを仕立てるお客さんもいれば、逆にクラシックな3つ揃いのスーツを仕立てる人もいる。

各々がそのライフスタイルに合わせた服を仕立てること。これこそがナポリ仕立ての自然な形です。

裏地は自分で実際に生地を選んだときに、そのスーツを暖かく着たいのか、涼しく着たいのか、そういう観点で考えてみるのが一番です。

例えばランバルディ教授の場合、コットンスーツなどを含め合物や冬物はこれでもかというほど総裏です。きっと寒がりだったのですね。

逆に夏物はリネン100%の薄手のジャケットを、さらに裏地(袖裏も含めて)をできるだけ無くしてオーダーしてありました。きっと暑がりだったのでしょう。

つまり寒いのも暑いのも苦手な、私と同じようなタイプだったということでしょう。

ルイジ・グリマルディの場合は彼が暑がりだからということもあるかもしれませんが、裏地は全て背抜きです。秋冬物のツイードジャケットを頼んでも、春夏物を頼んでも背抜きで上がってくるのですね。もちろん頼めば総裏もできます

ジャンニ・ピッチリーロは?もちろん背抜きが多い。

それはもちろん軽い方が送料が安く済むから。

私とジャンニはこうして小銭をためて、いつも行列の有名ピッツェリアであるディ・マッテーオでコネを使って厨房から横入りして、マリナーラを食べているのです。

ですから皆さんもオーダーする際には是非、背抜きでの注文をお願い致します。

ちなみに目付けのいい450g/mのスーツとかはいけません。だってそのスーツだけで1.5kgになってしまいますからね…。

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