おはようございます、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の大橋です。

最近めっきりブログを書いていないと思ったら、急に白糸の滝のような勢いで書き始めたのはどうしてか。

この秋のひんやりとした風や木々のにおい、そこに名盤Somethin’ Else「枯葉」のマイルス・デイヴィスのトランペットが入れば(いや別のCDのポール・デスモンドが吹くホルンのように滑らかなサクソフォンでも良いのですが)、誰でもブログ記事の4本や5本、書きたくなってしまうものでしょう。

そう、私はこの季節のためにとっておいたのです。

文字を…。

こういう季節には、今までぼんやりと捉えていたことを改めて学び直すのが良いでしょう。例えばナポリシャツと呼ばれているものが、本当はどんな特徴を持っているのか。

ナポリの服の中でもシャツは特にショップやバイヤーの別注を受けて、様々な味付けがされているものです。では本来の姿は?という部分に注目してみましょう。

ナポリ人にとってシャツとは何なのか?

まずナポリでシャツがどういう立ち位置にあるのかを知っておかなければなりません。

ナポリ人にとってシャツとは、外に行くときはいつも着るべきものです。

彼らはトレド通りやキアイア通りに行くときはもちろんのこと、ご近所にお買い物に行くときでさえ、遊びに出かけるときは襟のついたものを着るという習慣があります。ナポリの人が全てそうというわけではなくとも、皆が何となく持っている感覚なのです。

誰もがハンドメイドでシクテスやカルロリーヴァ生地のシャツを着ているわけではありませんし、そういう人は多くないでしょう。

しかし少しでもおしゃれに気を使う人、すなわち驚くほど多くの人がイニシャル入りのシャツ、つまり簡易的なものであれカミチェリアでオーダーしたシャツを着ているのです。

毎日使うもの、好きにオーダーして楽しんで着るもの。しかしデートでかっこよく色男に見え、レストランでお洒落に映える服。これがナポリ人にとってのシャツなのです。

では一流カミチェリアが仕立てるハンドメイドのシャツは誰のものなのか?これはサルトリアで服を仕立てるような富裕層と、サルト達のためのシャツです。

彼らはビスポークのスーツに合わせて着るドレスシャツを求めている。そのクオリティは、やはり一流カミチェリアでなければ実現できないでしょう。

ナポリ人がドレスシャツに求めるもの

ではオシャレなナポリ人たちは、シャツに何を求めるのか。ナポリでは使う用途によってシャツに求めるものが180度近く変わること、それが日本ではあまり知られていないのです。

今回はビジネスやパーティなどで着る、スーツに合わせるドレスシャツ。薄青の無地や白シャツ、クラシックなストライプなどでネクタイをする前提に作るドレスシャツについて考えてみましょう。

そのようなとき、彼らがドレスシャツに求めるのは「いかにジャケットに合うか」ということです。そうしたことを考えた結果生まれるシャツの一番の特徴は、アームホールから胸回り、胴回りにかけてのフィッティングです。これらは着心地の悪くならない範囲で、できるだけタイトにします。

アームホールは小さく高くします。これはどうしてかといえば、ジャケットを着たときにアームホールが小さいと着心地の邪魔をしないからです。逆にアームホールが大きすぎればいかにナポリ仕立てのジャケットが優れていても、シャツがその動きを妨げてしまうのです。

ウエストや胸回りが十分に細くなければいけない理由はシンプルです。ジャケットのボタンを閉めて着たとき、生地の余りがたるみになって前に出てきてしまうのを防ぐためです。

ナポレターノはむしろお腹が前に出ている可能性の方が高いのでは?と思われるかもしれませんが、この辺ビスポークのスーツやジャケットを着ている人は特に強い美意識を持っているのです。

やや狭目の肩幅も大切な部分です。肩幅がジャケットよりも幾分狭くなっていることで、シャツとジャケットの関係をはっきりさせます。つまりシャツは肌の延長線になるわけです。

ナポリのシャツ=柔らかく高い襟 は間違い

さらに大切なのは、しっかりと高さを合わせた芯地の入った襟です。

よくナポリは襟高で、芯地はフラシで柔らかい、なんて説明をされることが多いです。しかしこれは大変一面的な説明だと言わざるを得ないでしょう。

ナポリのカミチェリアは必ず、首の長さで襟の高さを決めます。首が短い人に襟の高すぎるシャツは似合いませんし、首が長い人に低い襟も合いません。当店の扱うカミチェリア・ピッチリーロの場合、簡易版のオンラインオーダーでさえ襟の高さが調整できるようになっているのはそういった意味があるからです。

襟が柔らか過ぎるのは好まれません。ナポリ人たちはカッコよく決まるシャツを求めているからです。ですからネクタイをするシャツは必ずと言って良いほど半フラシ(表面は接着する)で、ちゃんと弾力を感じる程度の硬さの襟にします。

またナポリに限らず、ビジネススーツでフラシ芯のしわ感が目立つシャツを着るのは、やはり場面違いな感じがするものです。ビジネススーツに合わせるシャツでも何でも柔らかくしてしまうのは、日本でそのようなナポリシャツが誇張されて宣伝されているからでしょう。

彼らがドレスシャツに求めるのは、スーツやジャケット、そしてネクタイの姿が美しく決まることです。襟はある程度しっかりとしているのが大事なのです。

ナポリシャツのギャザーやシワは?

それではナポリシャツのギャザーやシワにいてはどうなのか。

ナポリシャツの特徴の一つとして、各所にギャザーが入っていることが挙げられます。これは可動域を上げる意味でも入っていますが、装飾的な意味合いもあるでしょう。

ナポリではこういうものだ、とされているのでビジネスでもあまり関係なくギャザーの入ったシャツが着られていますが、日本や他国のビジネスシーンで着るときには、このようなギャザーは少なめにしてもらうようにオーダーすると良いでしょう。

そうすることでよりスタンダードで、色々なシーンで着ることのできるシャツになります。フォーマルの場合にはあまりジャケットを脱ぐことはないでしょうから、そこまで気を使う必要はありません。

ナポリのシャツにはもうひとつ、余りジワがあります。

例えばこのシャツの前身頃、アームホールに沿うようにシワが一本走っているのが見えるでしょう。このシワについては、あまり過度に指摘したり、取ったりし過ぎてはいけません。

このシャツについて言えば、襟を閉めてネクタイをすればこのシワはわずかになります。ついでにシワは取ろうと思えば簡単なことです。しかしこのシワを取るということは、前肩に合わせて前身頃胸囲をより狭くするということです。

するとどうなるか。いつもより姿勢を正して背筋を伸ばしたときや、肩を後ろに引いたときに突っ張ってしまいます。そうならないように、動きを考えて生地を残してあるのです。

こういったシワは肩から胸回りにかけて特に多く残されています。もちろんシャツ職人に言えば取ってもらえますし立って鏡で見たときの見栄えはよくなりますが、せっかくのナポリシャツですから着心地のためにそのシワは残しておくのが良いでしょう。

全てのことには意味がある=シャツ職人に聞くこと

ひとつ覚えておかなければならないことがあります。

それはシャツは不完全さから成り立っているということです。

例えば見栄えを良くしようと全てのシワを取り切れば、動きにくく突っ張りやすいシャツになってしまいます。肩幅は広くぴったりと合っていた方が美しいですが、着心地を良くするには自分の肩よりも内側に入れ込みます。

このように着心地と見た目のバランスがせめぎ合った結果生まれているのが、ナポリシャツなのです。

そのためもしビスポークでシャツを作ったとしたら、襟の硬さやシワなど一見無駄や欠点に思えるような部分にも職人の考える「ベスト」が隠されている可能性があります。

またカフの形や襟のカーブなど、あるカミチェリアが採用していて、あるカミチェリアが採用していないものも多い。またあるカミチェリアが手縫いでやっても、他ではやらない部分もあります。

例えばカフ先端が内側に凹んだカーブは、手首にカフが当たらないようにした工夫です。その一方でストライプの生地などでは線が歪に削られて、ジャケットの袖口での見え方が不自然になる場合もあります。

それを採用しているかどうかは、着心地と見た目のバランスを考えてどちらを求めたか、という結果であり、採用していないとレベルが低いというわけでは決してないのです。手縫いでやっていないのは手抜きではなく、強度を求めた結果であるかもしれません。

ナポリのシャツは奥が深い。それを体験するには一度先入観を捨てて、職人やシャツを熟知したフィッターの意見を聞いてみるのが大切なのです。

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