こんばんは、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の大橋です。
ナポリの仕立て服といえば、とにかく雨降らし。
そんなイメージも随分薄れて、ナポリには様々なサルトリアがあり、そのサルトリアによってその方法や見た目も異なるということが何となく知られてきました。
しかしもう一つ大事なことがあります。それは自分がどのような袖付けを選ぶべきか、ということ。ナポリではオーダーするときに「肩はどうする?」と聞かれます。
今回はサルトリア・チャルディのスーツを例にとって、どんなときに、どんなショルダーでオーダーするべきなのかを紹介いたしましょう。
マニカ・カミーチャの袖付けには必ず個体差が生まれる
サルトリア・チャルディの袖付けは一見して、彼らの仕事であることがわかります。決してやりすぎることなく、それなりの重厚感さえ漂わせながらも、それがナポリの仕立てであることをさりげなく主張している。
しかしそうは言っても袖付けの具合は、生地の厚さや柔らかさなどによって、また一着一着を仕立てていくうえで生まれる個体差によっても変わります。
そのため「この袖付けがいい!」と言っても、実際には選ぶ生地やその人の体型によって変わる、いわば偶然の産物が、袖付けのギャザーなのです。
秋冬物の分厚い生地、例えばツイードでジャケットを頼んだら、いくら華やかにギャザーを寄せるのがハウススタイルのサルトリアでも、いつもよりは控えめになる可能性が高いのです。
ナポリのサルトリアで服を仕立てるときには、それを大前提として知っておくことで、より仕上がりを楽しむことができるでしょう。
かたい仕事やフォーマルならば、控えめに
この写真のサルトリア・チャルディは、手前がビジネスでも使用することを考えたスーツで、奥がカジュアルに使うパッチポケットのジャケットです。
それを踏まえて見てみると、袖付けの具合が少し異なることに気づくでしょう。手前のスーツの方がわずかにギャザーが控えめで、よりクラシックな雰囲気になっているのです。
ナポリのマニカ・カミーチャ、マニカ・マッピーナと呼ばれるような袖の付け方は、職人の感性と技術を美しく表現してくれる仕様です。しかしそれゆえに、例えばグローバルスタンダードのスーツとして考えたときには、あまりに強調されていると場にそぐわない可能性があります。
そのため、もし今からオーダーするスーツが、非常に重要な会議や商談で着るものであったり、グローバルな職場や取引で着るものであるのなら、雨降らしのギャザーは控えめに、と店やサルトリアで頼むのが正解です。
また公式なパーティや冠婚葬祭など、フォーマルなシーンで着る服に関しても、ギャザーは控えめにしておくとエレガントです。
これはフォーマルなシーンの場合、特に主役でなく招待される立場の人は、ルールから外れるよりも、ルールをきっちりと守れば守るほど、また奇を衒う要素を無くすほど、エレガントに見えるからです。
カジュアルなら、多めのギャザーでもOK
逆にパッチポケットのカジュアルジャケットはもちろん、あまり服装に厳しくない職場であれば、雨降らしのギャザーに特別な気を配る必要はありません。
むしろダブルステッチや袖ボタンの数変更といったことに合わせて、ナポリの服らしい要素の一つとして積極的に楽しむのがおすすめです。
特にギャザーの寄ったジャケットは、本人がリラックスして見えます。例えば友人と食事に行くとき、家族で旅行に行くときなど、このようなジャケットを着ていると周囲の人も何となくリラックスした時間を過ごせるはずです。
本当に着る服でそこまで変わるの?と思われるかもしれませんが、肩が非常にかっちりとしたクラシックなジャケットはいわば、シワひとつなく糊の効いたシャツや折り目が刃物のように尖ったトラウザーのようなものです。
休日に待ち合わせた友人がこのような服を着ていたら、ほんの少しでも違和感か、緊張感が漂うのではないでしょうか。
ギャザーを寄せて、と頼んだときの仕上がりは先ほども書いたとおり、サルトリアや生地などによって随分異なります。
もし新しいサルトリアや店で服を頼むのなら、頭の中であまり「こういうギャザー!」とイメージを作ってしまわず、「カジュアルで着るから、袖付けはマニカ・マッピーナで」とざっくりとオーダーしてみましょう。
そうすれば彼らの思う、あなたとあなたの選んだ生地に似合う雨降らし袖でそのジャケットを仕上げてくれるはずです。