ふんわりとギャザーの寄った袖付け、これでもかというほどびっしりと入ったダブルステッチ、副資材を殆ど用いないアンコン仕立て……。

日本で人気なナポリ仕立て既製服は、大抵そういったディテールを持っています。

ですがそれらは本当に、ナポリの伝統的なスタイルなのか? 現地の人々もそれを着ているのか?

今回はそんなことを紹介していきたいと思います。

「ナポリ」を強烈に打ち出したスタイル

かの有名なラ・ベラ・サルトリア・ナポレターナはもちろんのこと、日本やアメリカで人気のサルトリア・キアイアなどもこのような仕様を持っていますよね。

「Sartoria Chiaia」の仕立て。手持ちがございませんので、FINAEST.COMより写真をお借りいたしました。

このスーツに関して言えば、ビンテージのリバイバルとも言える幅広ラペル、ふんわりとしたマニカ・カミーチャ、パッチポケット、いかにもなダブルステッチが、軽やかなアンコン仕立てと合わせられています。

しかしそういった仕様のナポリ仕立てが、本当にナポリで着られているものなのか、それを気になっている方もいらっしゃるでしょう。

そういった「日本人の求めるナポリ仕立て」が本当に現地で着られているナポリ仕立てと同じなのか。

実際にはどうなのでしょうか。

ナポリ仕立ては千差万別

ナポリ仕立てについて考えるとき、まず一つ知っておくべきことがあります。それはナポリ仕立てが千差万別であるということ。

もともとナポリには個別主義的な考えが根付いていて、日本にあるような集団性、団結力はないと言われています。

ナポリの街を歩けば人と人が意見を主張しあって口論になっている場面をよく見かけますし、彼らの好みは実に多彩です。ある人が良いというピッツェリアがあっても、その友人は平気でそのピッツェリアは「二流だ」と言います。

日本だったら、仲の良い友人が良いというものは、自然と良いと思ってしまう、少なくとも良いと思いたいという思考は働きますよね。

ですからそんなナポリに根付くサルトリア文化は、総体ではなく個別に考えると理解しやすいのです。

全体的には確かにイギリスのスーツをアレンジし、着心地を軽く柔らかく、そして人間的に美しくしたようなスーツが多い。しかしあくまでそれは欧米人の言うところのテンデンシー(傾向)であって、一概にそういうわけではないのです。

マニカ・カミーチャ等のナポリの土着的な要素をどこまで打ち出すかという点はもちろん、もともとのシルエットやドレープ感など、多くの部分がその職人の美意識によって決められているのです。

新しい世代のナポリ仕立て

以上のようなこともあって、日本で売られているような軽さ、柔らかさと手縫い感、そしてナポリ仕立ての土着的な要素を強く打ち出したナポリ仕立ても、偽物ではないのです。

ではそのナポリ仕立てが現地ナポレターノ好みかどうか。

実はこういったナポリの土着的なニュアンスを強めたナポリ仕立ては、むしろ若い年齢層のナポレターノに人気です。

この新しい世代のナポリ仕立て愛好家たちは、昔からナポリで仕立て服を愛して止まなかった紳士達とは、少し違った視点を持っています。

今世界中から注目を集めるナポリ仕立ての魅力を、ある意味では逆輸入された形で再発見し、ナポリのアイデンティティを背負っていこうとしている人たちなのですね。

彼らは言わば、現代において純和風カフェを開こうとする日本の20〜30代に近い存在です。

ですから彼らは進んで、着こなしやディテールナポリの土着的なニュアンスを取り入れています。

まるで昔の宮廷服のように優雅なマニカ・カミーチャ、ダブルステッチ、パッチポケットに幅広いラペル。今の日本で流行しているこのような仕様のナポリ仕立てを、一度ナポリ駅前で現地人が着ているのを見かけたことがあります。

それはやはり20代と思われる、非常にスマートな装いの男性でした。

それに対して(もちろん時代によって変化もありますが)、昔からナポリ仕立てを着ている50代〜の紳士達は、そこまでナポリを全面に打ち出していないスタイルを好む場合も多いです。

例えば現代のお洒落好きが(特に日本の方に多いですね)、忌み嫌うように避けている肩パッド。肩パッドは古いスタイルと思われがちですが、必要に応じて適量を使えば体型をより魅力的に見せることも可能です。

ですから従来の着道楽達は、それぞれが好むスタイルのスーツを馴染みのサルトリアでオーダーします。そのスタイルは驚くほど英国的で構築的なこともあれば、フランスのモード服のようにコンケープしたショルダーを持っていることもある。

日本人の思う典型的なナポリ仕立ては、おそらく彼らの愛するナポリ仕立てよりも、若い世代が再発見したナポリ仕立てに近いものと言えるでしょう。

(ちなみにダブルステッチは、かなり多くのナポリ紳士達が好むディテールで、わりと共通した好みと言えそうです)

まとめ

いかがでしたか。

今回は日本人の思うナポリ仕立てが本当に現地で着られているのか、ということを考えてみました。

ちょっとしたお話ですが、ナポリ製のスーツやジャケットを選ばれる際の参考にしていただければ幸いです。

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