なぜビスポーク界でビンテージ生地が注目されるようになったか?

ナポリのCaccioppoliにて撮影

こんばんは、プロフェソーレ・ランバルディ静岡の大橋です。今日はひとつ、生地についてお話をさせていただければと思います。

やはりビスポークの世界では生地が非常に大切です。特に私たち日本人や英国人、フランス人やロシア人の….(つまりイタリア人以外の)生地へのこだわりと言えば特筆すべきものです。

いや、もちろんイタリア人の生地へのこだわりも素晴らしいものですが、実際ナポリ現地でサルトリアに行くと割と適当にリーズナブルな生地でスーツを仕立てている顧客が多いことに驚くのですね。

彼らはもちろん生地のクオリティを気にしますが、私たちほど「生地の血統や階級」を気にしておらず、手触りや色合いがよければ耳など付いていなくても良いという人も多いのです。

その点、外国人である私たちの生地への熱狂具合といったら驚くべきものです。さながらアジアからの胡椒に熱狂した大航海時代のヨーロッパ人、あるいはオモチャを与えられた3歳児のような状態と言えるでしょう。

イタリアで認められる生地ブランドはこれやこれで、この生地ブランドはビスポークには繊細すぎる、さらにこのブランドは入門スーツにも使われているので格下である…。

その程度ならまだしも、あまりにもマニアックになれば、ビンテージ以外はスーツ生地として認めず、現代の布地などいわば草を寄せ集めた古代エジプトのパピルスのようなものだと言わんばかりになります。そこで繰り広げられる論争はといえば、ドーメルのトニックは何色の耳が良くて、ホーランド&シェリーはどの時代のものが最高で、といった具合です。

しかしそのマニアックな世界であったビンテージの生地が、現在の世界的なビスポークブームに後押しされて、ついに一般的なスーツファンにまでも身近な存在となりつつあるのです。

特に今年に入ってからはビンテージ生地の復刻や、ビンテージテイストを全面に打ち出した生地コレクションが数多く見られています。

スーツ「ビンテージ生地熱」に火を点ける者たち

今回のナポリ出張で私が特に強烈に感じたビンテージ復刻の動きは、ある生地ブランドの新作コレクションです。

皆さんにとっては意外どころかもしれません、それは VITALE BARMERIS CANONICO ヴィタルバルベリス カノニコなのです。

例の入門スーツ御用達生地ブランドとして小馬鹿にされていたカノニコが熾烈極まるリベンジを始めたのは、2年ほど前だったでしょうか。それこそリベンジと名の付いたSUPER 150’sウールのコレクションは、度胆を抜くほど美しいものでしたね。

CANONICO カノニコはコストパフォーマンスの良さから入門スーツに多用され、そのせいでブランドの評価は「素人向け」といったところでした。しかし実際にはかの有名なDRAPERS ドラッパーズやCaccioppoli カチョッポリに多くの生地を提供している一流ブランドです。(これらのタグがつくと価値が何倍にもなるものです)

そして最近CANONICO カノニコが力を入れているのが、一流サルトリアとのコラボレーション。サルトリア・チャルディやアントニオ・パニコといった老舗とコラボすることで、そのクラシックさを強くアピールしています。そしてそのジャケット・コレクションは、いかにもビンテージライクな風合いのものなのです。

他にもinstagram等で注目されるウェルドレッサーたちが、ともすると古臭さを感じるほどビンテージ感の漂う生地を使ったビスポークスーツを美しく着用していることで、ついにビスポークをする人なら誰もがビンテージ生地に興味を持つようになったのです。

ビンテージ生地は何が、どう違うのか?

さて、そこで一番の疑問はビンテージのスーツ生地が今作られているスーツ生地とどう違うのか、というところでしょう。

ビンテージ生地と現在の生地の一番の違いは、その風合いです。ビンテージの生地は一般的に重量感があり、手触りは今のものよりもざらっとしていることが多いです。また今の生地のような目の整った美しさはなく、むしろ不揃いな雰囲気で、少し硬い生地感であることが普通です。

このように書く、デメリットしかないように聞こえますね。実はさるビンテージ生地収集家によって「これ以上ビンテージ生地の需要が高まるようなことがあれば、君の店のinstagramアカウントを、セクシーな女性の写真に度々タグ付けしてやる」と、脅迫されているのです。

まあ、それを恐れず書くのであれば、ビンテージ生地はそのハリコシの強さや目付けの良さ故にビスポークで仕立て栄えがするのです。また生地が丈夫なので、何年も着込んでいくことによって体に馴染んでいくという利点があります。

しかし一概にビンテージ生地が良いというわけではありません。ビンテージ生地の難しさはその生地感そのものです。いくら仕立て栄えがして着込んでいく価値があるとはいえ、しなやかな生地が好きな人が我慢してビンテージ生地のジャケットを着るのは滑稽なことです。

また生地感や色の組み合わせゆえに古臭く見えることも多く、それを理解したうえで着こなさないと、センス良く見せるのが難しいのですね。

様々な利点が語られますが、ビンテージ生地はあくまでテイストであり、それを好む人が着るべきものなのです。

生地は年々改良されており、しなやかになり、上品で美しい発色となっています。ですからビンテージ生地が注目されているからといって、ビンテージ生地が現代の生地より優れているとは限りません。

そこは注意すべき点でしょう。

ビンテージ生地と現代のスーツ生地を写真で比較

ちょうどここに面白い写真があります。実は当店のお客様がFabio Sodano ファビオ・ソダーノにてホーランド&シェリーのキッドモヘア混ウール生地でスーツをオーダーしてくださいました。そして私もまた以前、実に近い雰囲気のビンテージ生地、スキャバルによるキッドモヘア混ウール生地を使ってFabio Sodano ファビオ・ソダーノで単体ジャケットを仕立てていたのです。

比べて見てください。

いかがでしょうか。おそらくどちらがビンテージか、すぐにわかるでしょう。

左がビンテージのスキャバル生地、右が現在のホーランド&シェリー生地です。

私の私物であるビンテージ生地のジャケットは目が不揃いで少しざらっとした感じ、少し生地にギラつきがあって、素材感も強めです。独特の雰囲気があるので、好みは分かれるでしょう。私個人の意見ではジャケット単体であれば、この生地は良いセレクトだと思います。

それに対してホーランド&シェリーの生地は非常に繊細で、上品な雰囲気です。奥ゆかしい光沢はどんな場面でも品格があり、他のアイテムとのバランスも良いはずです。スーツで着ることを考えると、こちらの方がよりエレガントな選択と言えるでしょう。

ちょうど私のジャケットはオーバークラシックとも言えるような幅広ラペルで、いかにもビンテージっぽい雰囲気です。お客様にお作りいただいたスーツは大変バランスがよく、程よくトレンド感も伝わるスタイリッシュな雰囲気ですね。

このように、求める雰囲気によってビンテージ生地と現代の生地を使い分けるのが良いでしょう。

皆さんの次のスーツは、どちらの生地を選びますか?

 

プロフェソーレ・ランバルディ静岡では、ホーランド&シェリーやドラッパーズなどの最高級生地を使ってナポリのサルトリアが一着ずつ作る本物のナポリ仕立てビスポークとメジャーメイドを展開しています。

Sartoria Ciardi サルトリア・チャルディ(仮縫い付きビスポーク)

Fabio Sodano ファビオ・ソダーノ(仮縫い付きビスポーク)

Sartoria Caracciollo サルトリア・カラッチオーロ(メジャーメイド)

※店頭には少しだけ、ビンテージ生地のストックもございます。

 

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