本場イタリア風の着こなしとは何か、人に聞かれることがあります。
私もまた、以前ライターの仕事をしていたときには、そのようなことについて常に思考を巡らせていたものです。
しかしこの偏屈なイタリアの洋服店を始めて約1年、幾度となくナポリに通って私は初めて、「本場イタリア風とは何か」ということに気が付いた。
今日は皆さんにそのお話を致しましょう。
本場イタリアとはどんなところなのか
イタリアに憧れている日々というのは、いわば恋もしたことがない女の子が結婚について思いを馳せているようなものです。
確かにイタリアは美しいし、エレガントな紳士も多い。しかしその実態は、必ずしもイメージした通りではありません。
本場イタリアとはどんなものなのか?
それを皆さんにご紹介するために、ある文章を紹介いたしましょう。
21世紀を生きたある洋服店のしがない店主が、過酷なイタリアでの買い付け中に、その気持ちを(エスプレッソのレシートの裏に)書き記したと言われている文章です。
神はイタリアに全てを与えた。栄光の歴史と美しい風土、荘厳な建築にありとあらゆる芸術。そしてナポリ仕立てのような優れた文化を。
しかし神はその他の国々に対して、決して不平等ではなかった。
なぜなら神はイタリアに全ての優れたものをもたらしたついでに、「イタリア人」を作るのを忘れなかったからである…。
もし北イタリア人がドイツ人と同じ気質であったなら、アルファロメオに乗ろうとするとドアノブが取れるという事態は起こらなかったはずだ。
しかしこれに対して南イタリア人は思うだろう。
「なんて高度な防犯システムだ」
これこそが、イタリア人である。
もしイタリア人が日本人と同じ性格であったとしたら、地下2Fと地下1Fを無限に行き来するエレベーターを地下3Fで永遠に待ち続けるような災難は起こらなかっただろう。
もちろんATMでクレジットカードが吸い込まれたままそのまま消えたり、電車がMIDDLE OF NOWHERE(荒廃した田舎)でなんのアナウンスもなく1時間半止まったり、6年かけて作った地下鉄のトンネルの企画が小さすぎて電車が通れなかったりすることもなかっただろう。
このような秩序なき社会システムの中では、あまりにも不合理なことや、不条理なことが常に起きている。
そしてそんなイタリアに住む彼らが手に入れたもの。
それが「大雑把に物事を処理する」という独自の手法である。
ざっくりとした処理をして、問題が起きたらそのときになんとかする。細かいことは気にしないし、お互いが迷惑を掛け合うので、細かいことは指摘しない。
自分に優しく、そしていずれ自分のせいで迷惑をかけるかもしれない他人にも優しく。
それが彼らの理念である。
また彼らが自分を守るためにもう一つ、世界でも屈指の便利さを誇る理念を持っていることを見逃してはならない。
それは「自分の考えが一番正しいし、人がそれについてどう思っているかは基本的にはどうでもいい」という理念である。
イタリアではほぼ全員がこのように考えていることにより、それぞれが火花を散らしあい、それが素晴らしい芸術やレベルの高い文化を生んでいるとも言える。
彼らは全員がミケランジェロなのである。
本場イタリアの着こなしをする上で大事なこと
本場イタリア風の着こなしを雑誌やスナップで研究しているのに、なんとなくかっこよくならない。
そんな風に悩んでいる方も多いことでしょう。
上で紹介した通り、結局彼らの着こなしの大前提にあるのは、「細かいことは気にしない」という性質、そして「自分が一番正しい」という自信です。
そして日本人の性格は残念ながらその対極にあることが多い。
それなのに彼らの着こなしを細々と真似するものだから、なんとなく画竜点睛に欠くというか、筋の通らない着こなしになりがちなのですね。
一番大事なのは、彼らの考え方と理念を理解することなのです。
まず、細かいことを気にしすぎてはいけません。
例えば自分のコーディネートをインスタグラムで投稿するときに、「よく見たら色が合っていませんでした😭」と書いてはいけないのです。我こそが世界一だと思いながら、投稿ボタンを押す必要があります。
また、自分が本当に気に入ったものでなければ着こなしに取り入れてはいけません。
彼らイタリア人は例え20年来の親友であっても、テイストが違えば「それはダサい」と平気で言うものです。
とにかく周りを褒めてしまう日本とは異なる文化ですが、イタリアに限らずヨーロッパ諸国では気に入らないものには明確にNOと言います。
しかしそれは相手を否定しているのではなく、あくまでそのテイストについて自分の意見を示しているだけなのですから、問題ないのです。(ただしその際には「自分はそれよりもこれが好きだ」という自分の意思を持っている必要があります)
これこそが本場イタリア風の着こなしをするときに一番大切なこと、大前提ですね。
本場イタリア風の着こなし方
では本場イタリア風の着こなしをどのようにすれば良いのか。
私がナポリで見る限り、彼らの中でオシャレな人々の着こなしはこういう成り立ちです。
自分の仲の良いサルトリアで仕立てたジャケットやスーツを、何年か前のちょっとお財布が温かかったときにまとめて作ったシャツに合わせて着ている。
ネクタイは自分の好きな柄で、ブランドはこだわらない。靴はどこかで買った英国製の4〜5万円のブラウンの紐履で、靴下は駅前の青空市で2ユーロで買ったコットン100%のもの。
ジャケットを作ったときからお腹が出てしまってウエストは閉まらないが、肩は痩せてきてちょっと余っている。トラウザーには近所のピッツェリアでマリナーラを頬張ったときに跳ねたソースでシミができている。
こんなものですね。
大事なのは体型が変わってしまうにしろ、一度はジャストサイズで仕立てたビスポークの服を着ること。どんなにカジュアルな真っ青なリネンのジャケットでも、紺のブレザーでも、彼らはいつもビスポークの服を着ています。
しかし細かいことを気にしてはいけません。ちょっとウエストがきつくても、まあ良いでしょう。人は完璧ではありませんし、それが愛嬌にもなります。
着こなしは生活に馴染むものが良い。彼らはトレンドもファッションの基礎も全く気にしていませんが、自分の外見とライフスタイルにどんな色や生地が似合うかは常に意識しています。
そしてこれこそが、彼らをオシャレに見せている最も大きな要因です。
それは「この色にはこの色!」とか「今年は〜に注目」という考え方では手に入らない、ビスポークがライフスタイルに溶け込んだ本物のエレガンスなのです。